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だから俺は走る。走る。走る。走る。すべてを振り切るように、何もかも忘れてただひたすらに。前だけをみて俺は、走る。走る。走る。走る。その先にある栄光を、この手で必ずや掴み取るために!
(了)
そこまで読んだ俺は、もういても立ってもいられず部屋着であるグレーのジャージ姿のまま年季の入ったコンバースのスニーカーを履き玄関から外に駆け出した。
「住安荘」なにこのネーミングセンス。住所を伝えるとき毎度恥ずかしい思いをするモロ昭和ダジャレネームの木造アパート102号室にあるマイルーム、だって家賃安いから低所得者な俺様に選ぶ権利なんてないからね、を飛び出すとなんと、103号室の藤田さんとハチ合わせ。
「おっ、どうもどうも」
「あっ、いやあいやあ」
茶色っぽいジャンパーを着た五十歳ぐらい? の藤田さんと三十二歳の俺、お互い男でシケた貧乏アパートの住民であるということ以外なんの接点もなさそうで話すことなんてないからあいさつもそんなもん。
「じゃあまあ」
「ああまあ」
ほぼ意味不明なかけ合いをして逆方向に走り出す俺たち。とはいえ俺に確固たる目的地などなく衝動的に走ってるだけだから。おうち大好き・腹のせり出したメタボ体型な俺は赤に変わりかけた横断歩道でさえ走るのがしんどい。なのにいったいどうした、なんで走ってんの俺、じつは俺自身にもよくわからんのよ。とにかくさっきまで読んでた小説「走り出す」読み終わった瞬間にもうどうしようもなくなっちゃったの。
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