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「おーう、出たぞぉ。とびっきり長くてぶっといやつ!」
「トイレ詰まったんでないのかい? いつぞやの宿泊所の時みたいにさぁ」
「まーた新井田を怒らせることになるなぁ。『おんめぇーっ、いい歳してやっていいことと悪いことの区別もつかんのかぁ!』ってさ」
「ああ、おんめぇーっ! ってな」
「そうそう、おんめぇーっ!」
ああ、やっぱこいつ最高だなぁ──元・生活指導担当教師の口真似をしながら、俺はそんなことをしみじみ感じていた。
俺のような落ちこぼれにもノリを合わせてくれる懐の深さ。バカを装ってはいるけれど、その実勤勉で努力家で、びっくりするほど器用で多才な男。俺を音楽の道に導いてくれた張本人。
大学卒業と同時に音楽からは完全に引退すると聞かされた時、俺はたまらなく悲しかった。お気に入りのドラムスティックを失った時以上に、しばらく立ち直ることができなかった。この世の不条理に憤りさえ覚えたものだ──どうして俺みたいな凡才以下が惨めったらしく夢にしがみついているのに、こんなに才能あるやつがやめなくてはならないのか。
けど、もちろん今は何のわだかまりもない。そいつは国内最大手の通信会社に就職したのだし、今は素敵な奥さんだっているのだ。学校創立史上最悪の愚連隊と呼ばれた俺たちの中で、最も成功を勝ち取った男。祝福しこそすれ、恨んだりできようはずもない。
「待つよ」小便器に向き合った勇翔に、俺は有名なポップソングの節をつけて声をかけた。「いつーまでーも、な」
「おーう、そうしてくれるとありがたいな。ちょっと話したいことがあるから」
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