アリの歌、キリギリスの働き

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 何か言ってやろうと言葉を探し、けれども何を言っても逆効果にしかならないように思えて、もぐもぐと口の中で無意味な文句を転がす俺。  そんな俺をよそに、勇翔は唐突に話題を変えた。「そういや、新曲聞いたよ。YouTubeで」 「マジか」 「式の最中は言う暇がなかったけど、すごい良かった。ライブも行きたかったな」 「おお、めっちゃ自信つくわ……って言いたいとこだけど、どうだろうなぁ。俺的には全然納得できてないよ。作れば作るほど、どんどん他人の二番煎じのカスみたいに思えてきて、時々自己嫌悪に襲われる」 「そんなもんだよ。いや、むしろそれでいいんだよ。一度満足の味を覚えちまったら、その時点で成長が止まっちゃうからな。……それと、カスとか言うな。俺はお前に……」  一呼吸置いて、こう続ける。 「お前の曲に、頑張ってるお前の姿に、救われてるんだから」  慰めるはずが、逆に慰められてしまった。口の端を吊り上げて自嘲しつつ、あまりの情けなさに目を落とす。 「ありがとな……でも俺、やっぱりお前にバンドやっててほしかった」  お前が俺のかわりに、俺の夢を叶えてくれたらどんなにいいか。 「そっか……ところで」  ついポロッとこぼした本音には取り合わず、勇翔はまたぞろ話題を変えた。 「下世話なこと訊いて悪いんだけど、きちんと飯食えてるか? なんか痩せたんじゃないか」 「なんだい、うちの母親みたいなこと言うじゃんか……大丈夫だよ。なんとか週六勤務でやっていけてる。正直いつまで続くかわかんないし、家計は毎月火の車だけど」 「そっかー、火の車かぁ」  そう繰り返すと、勇翔はふっと笑った。ひどく寂しそうな笑いだった。 「大変だよなぁ、お互いに。給料は全然上がらないし税金はアホみたいに高いし。いっそ誰かに養ってほしいよ」 「……ああ、そうだよな。大変だよな」  やめてくれ。  薄ら笑いを浮かべて同調しつつ、俺は内心で絶叫していた。  やめてくれ、そんな風に“大人”の発言をするのは。つい去年の忘年会でも誓いあったじゃないか、いつまでもこんな風に──学生時代みたいに、バカやって笑い合っていようなって。  こんな、こんなくたびれたことを言うなんて、お前のキャラじゃない。  勇翔はどこまでも優しかった。十分に傷ついてきたであろう我が身も顧みず、この期に及んでなお勝手な理想を押し付けようとしている俺の肩に、優しく腕を回してくれた──本当は俺が、真っ先にそうしてやるべきだったのに。 「さ、そろそろ戻ろうぜ。みんな待ってるし」
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