タツヤ

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タツヤ

やりとりをするなら一人だけ そう決めていたから私は相手をタツヤさんに決めた。 そして彼との距離が縮まっていく。 【こちらこそよろしくお願いします。せっかくだし敬語やめませんか?敬語だと何だかよそよそしいし。それとマコさんだと何だか微妙なんで、マコちゃんって呼んでもいいかな…?】 【了解です。じゃあ敬語は無しで。私もタツヤ君って呼ばせて貰うね。】 名前は偽名だ。きっとお互いに。 だけど呼び方が変わるだけでぐっと近付けた気になる。 名前の呼び方一つで心は変わる。 夫婦になれば、親になれば名前は無くなっていってしまうものだから…。 それは決して悪い事ではないけれど、自分が自分では無くなってしまうようで寂しくもあるものなんだよね。 【お、いい感じだね。やっぱりタメはいいわー!話しやすいっていうか変に気構えしなくていいから。】 気構えしなくていい…か。 正直で真っ直ぐな人なのかなって思った。背伸びしたり、自分を着飾るつもりのない人… まだ数回のやりとりだけれど、彼の人柄は何となく伝わってくる。 【私もそうだよ。タツヤ君って何だか話しやすい。】 私も自分を着飾りたくはなかった。 「既婚者」である事を隠す以外、嘘はつきたくないから。 沢山の嘘で溢れている世界に流されて自分を偽る事の方がきっと簡単だし楽になれるだろう。 だけど私はそうはしたくなかった。 例え苦しくなったとしても いくつもの嘘で自分を守りたくはないから…。
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