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僕は先輩に言う。
「いや、結構効率が悪すぎるというか頭が弱過ぎるというか、アレですか、先輩は可哀想な人なんですか」
「いやだって忘れてたら申し訳ないだろ? 例え誕生日が違っていたとしても笑って誤魔化せば済む話だけど、忘れてたら失礼になる人もいるわけで、だったら全員に声を掛ければいつか当たる気がする」
「……やっぱり是非今後は僕に敬語を使っていただけると嬉しいです」
僕は少し考えてからそう言った。
「いやまぁ絶対使わないけどさ。ほら、今君が住んでる社宅の部屋さ、前は俺が住んでたじゃない?」
「今更どきませんよ」
「いやそうじゃなく。入居時にメモ帳とか名刺ホルダーとか、俺の忘れ物なかった? 名刺とかに誕生日とかをメモってたんだけど、昨日自宅を探してみたら失くなってたんだ。もしかしたら君の部屋に忘れていなかったかと」
確かに、社宅への引っ越しだったので、清掃会社は通さず先住者である先輩が全て自分で掃除してから僕は入居したものと聞いている。
忘れ物なんて無かった気もするが、しかしまだ入居して1ヶ月あまりなので、収納スペースの隅だとか、まだ見ていないところもあるのかもしれない。
「今のところ何も忘れ物はありませんでしたが、押入れの奥とか、あんまりまだ見てないので、あるいは」
「頼むよ、悪いんだけど、ちょっと見ておいてよ」
「わかりました。昼1食くらいでいいですよ」
まぁ、そのくらいなら協力しないこともない。
「見つかったら奢るよ」
「見つからなくても奢られますよ」
結果はどうあれ、1食分が浮くであろうことに僕は喜んだ。
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