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思いがけずお祝いのお言葉をいただいたので、僕は混乱する。
混乱もしたが、もしこれが心霊現象の類いなのであれば、よく考えると怖い。
とりあえず僕はクローゼットの裏に位置するバスルームを覗きに行く。
当然、誰もいなかった。
しかし、むしろ誰かがいたほうが怖い気もするので、そういった意味では誰もいなかったことに僕は安堵する。
その他、僕の部屋の中をあらかた見回ってはみたが、やはり誰もいないし、スピーカーやら発声器の類いも見当たらなかった。
しかし、確かに声は聞こえる。
なんなら、まだ聞こえる。
何度も何度も、誕生日を祝う声が聞こえてくる。
もしこれが幽霊だとして、一体僕はどうするべきなのだろうか。
大家さんに連絡すればいいのか、お祓いしてくれる誰かを呼ぶべきなのか、それとも警察やら保健所を頼るのか。
心霊現象なんて初めて遭遇したので、実際に起きてしまうと、どう対処していいかがわからない。
『お誕生日おめでとう……』
まだ聞こえる。
よく聞くと、女性の声に聞こえる。
しかし、どう対処すべきかはわからないが、少なくとも何かを祝いに現れた幽霊ではあるのだろうから、そういった意味ではきっと危険はないもののような気もしてきた。
もしくは、何度も繰り返しその声を聞いたので、少し感覚が麻痺してきたのかもしれない。
『お誕生日おめでとう……』
一体今がどういう状態で、自分がどんな感情なのかもよくわからなくなったので、とりあえず僕は返事をしてみた。
「……ありがとうございます」
『どういたしまして……』
会話が成り立ってしまった。
いやもう、勘弁してほしい。
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