時間差の類いが迫り来る

6/14
前へ
/14ページ
次へ
 思いがけずお祝いのお言葉をいただいたので、僕は混乱する。  混乱もしたが、もしこれが心霊現象の(たぐ)いなのであれば、よく考えると怖い。  とりあえず僕はクローゼットの裏に位置するバスルームを覗きに行く。  当然、誰もいなかった。  しかし、むしろ誰かがいたほうが怖い気もするので、そういった意味では誰もいなかったことに僕は安堵する。  その他、僕の部屋の中をあらかた見回ってはみたが、やはり誰もいないし、スピーカーやら発声器の類いも見当たらなかった。  しかし、確かに声は聞こえる。  なんなら、まだ聞こえる。  何度も何度も、誕生日を祝う声が聞こえてくる。  もしこれが幽霊だとして、一体僕はどうするべきなのだろうか。  大家さんに連絡すればいいのか、お祓いしてくれる誰かを呼ぶべきなのか、それとも警察やら保健所を頼るのか。  心霊現象なんて初めて遭遇したので、実際に起きてしまうと、どう対処していいかがわからない。 『お誕生日おめでとう……』  まだ聞こえる。  よく聞くと、女性の声に聞こえる。  しかし、どう対処すべきかはわからないが、少なくとも何かを祝いに現れた幽霊ではあるのだろうから、そういった意味ではきっと危険はないもののような気もしてきた。  もしくは、何度も繰り返しその声を聞いたので、少し感覚が麻痺してきたのかもしれない。 『お誕生日おめでとう……』  一体今がどういう状態で、自分がどんな感情なのかもよくわからなくなったので、とりあえず僕は返事をしてみた。 「……ありがとうございます」 『どういたしまして……』  会話が成り立ってしまった。  いやもう、勘弁してほしい。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

31人が本棚に入れています
本棚に追加