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「本当に、申し訳ありません」
お父さんとお母さんが知らない人に謝っている。また叔父さんが何かやらかしたらしい。こんな田舎まで、よく追っかけて来るよね。
叔父さんはよくトラブルを起こす度にうちを頼って来る。お父さんもお母さんも正直迷惑に思ってるんだけど、親戚だからなかなか切れないらしい。当の叔父さんはいつもヘラヘラしている。
まあ私も叔父さんは嫌いだけど。誰も見てない所では私を触って来たりするから。だから叔父さんがいる時は、なるべくお兄ちゃんと一緒にいることにしてる。それに叔父さんが来ると、貯金箱の中身がなくなってたりするんだよね。
「もうあいつには愛想が尽きました。次にここに逃げて来ても、叩き出すつもりです」
お父さんがそう言っていた。
私は雪を丸く固めて、雪玉を作った。それをごろごろと雪の上で転がして、だんだん大きくして行く。時々手で押さえたりして固める。お父さんが屋根の雪下ろしをしたばかりなので、材料になる雪はたくさんある。
この庭は広くて掃除が大変だけど、冬はこんな風に雪遊びが出来るのがいい。特に今年の冬は寒くて、雪が多いと天気予報で言っていた。
大きくなった雪玉を転がしながら、私はお兄ちゃんがいる庭の隅まで行った。お兄ちゃんは既に、私が作ったのより大きい雪玉を作って待っていた。
「お、結構大きいの出来たな」
お兄ちゃんは嬉しそうに言った。二人で力を合わせて、私の作った雪玉をお兄ちゃんのに乗っける。立派な雪だるまの完成だ。
……私は知らない。この雪だるまのすぐ下に、昔使われていた防空壕があるということを。その防空壕はゆうに人一人が入れる大きさで、ここしか出入り口はないということを。
私は知らない。お兄ちゃんが、また何処かから逃げて来た叔父さんに「かくまってやる」とこっそり声をかけていたことを。
狭い出入り口では、いくら大人でも上にある雪だるまをどかせることは出来ないだろう。私もお兄ちゃんも、張り切って大きいのを作ったし。そしてこの下は、完全な密室。
夜になるとまた雪が降って来る。気温が下がると、雪は凍りつく。春になるまで雪は溶けない。そして、ここの冬は長い。
叔父さんがそんな所に逃げ込んでいるなんて誰も気づかないし、叔父さんがいることを知らない私達がその上に雪だるまを作っても、仕方ないよね。
私達は楽しく雪だるまを作っているだけ。……そう、それだけ。
「雪だるま、もう一〜二個くらい作ろうか?」
「うん!」
私はにこやかにお兄ちゃんに答えた。
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