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「お金をおろしたいのですけれど」
美しい白髪をきちんと整えた老女が、困ったような笑みを浮かべながら言った。「機械はオンチなものでね……」
お忙しいところすみませんねぇ、と、口元を隠してひそかに笑う。
「大丈夫ですよ、窓口でもできますので。……おいくらですか?」
「百万円を」
きっぱりと言う。
「先週の木曜日かしら。久しぶりにこどもから電話がかかってきてね。そうしたら、会社のお金を使ってしまったから助けてくれって言われてねぇ」
すっと心が冷える。だがあえて何も言わなかった。電話の相手を自分のこども、あるいは孫であると信じ切っている方に対して真実を突き付けても、かえって刺激してしまうだけだ。――と、入社してすぐのころ、先輩に教わった。
「かしこまりました」
こわばらないように、なるべく自然な笑みで。笑顔を絶やさぬように心がけながら、手元のパソコンを操作する。メールフォームを開き、デスクにいる先輩に宛ててメールを作成する。オレオレ詐欺の被害に遭われているであろう方の対応をしているのですが、云々。
「息子さんです?」
しまった、と思う間もなく、老女は懐かしそうに微笑んだ。「いいええ」
「もういないの。三十年くらい前に、事故でね」
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