余計な火種

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「いいよ、そんなことどうだって」  トメは手のひらを暖めるように湯呑みを包み「あったかいねぇ」と笑う。 「負けを認めたんだ? トメさん」 「私だってね、イチャついてる2人を見たときはそりゃカチンときたさ。〝あいつら何やってんだ?〟って。  でもあれがレース前で良かったね。あれが私にとって、勝ちに行く火種となったから。絶対こいつには負けらんないっていう思いが一層強くなってね、おかげで諦めずに勝ちにいけた。でもねーー」  と、一旦区切ってカヨのほうに顔を向ける。 「レースが終わればそんな感情はいらないんだよ、カヨちゃん。  長年連れ添った夫婦ってさ、恋愛感情のような浮かれたものはとうに終わってると思うのよね。いつしか私たちはさ、恋愛が信頼ってもんに姿を変えて繋がってる。  そりゃあ世のなか、歳とってもお互いスキスキって言い合える仲の良い夫婦だっているだろうけどさ、普通結婚して30年40年もすれば会話も少なくなるでしょ? 歪み合うのも面倒になってくるじゃない。  歳を重ねるほど互いが互いの存在に助けられてることを知るし、恋愛を欲するより信頼が大事。ハマコさんは独身だから、やっぱりその辺の理解は難しいよ。体験して初めてわかることだから」
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