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募集告知 (緋夜side)
「……よし。」
『番、募集します。
当方、Ω男性、19歳。
誠実な方求む。』
「これでいっか…。」
書き込んだのはαの専用掲示板。
普通、若いΩがこんな事を書き込めば、ヤリ目や冷やかしの連中がちょっかいをかけてくるかもしれない。
でも俺みたいな見た目のΩでは、そういう連中には 顔画像を見せた瞬間にブロックされるか、会う迄に漕ぎ着けたとしても、会った瞬間に踵を返す。
取り敢えず話だけでもしてみるか、といった奇特な人も中にはいたが、本当にお茶しただけで話も弾まず帰っていって、そのまま疎遠になる。
理由はひとつ。
俺が醜いからだ。
せめて容姿くらいは秀でていなければαに選ばれないΩにとって、それは致命的な事だった。
俺の左頬には2年前、ストーカーにつけられた火傷の跡がある。
2年前。高二の夏。
俺には将来番を約束した幼馴染みの男がいた。
家も近所、親同士も仲が良く、俺達は小さな頃から兄弟のように育った。
ふたつ歳上の彼は優しく、優秀なα。
どんな時にも俺を励まし、守ってくれた。
兄のように思っていた彼をαとして意識したのは中3の時だ。
初めてのヒートで、彼の匂いを強烈に意識した。
そして、それは彼も同じだったようだ。
彼から正式に、番を前提とした交際を申し込まれ、頷いた。
彼のように俺を包んでくれる、守ってくれる人は他にいないと思ったのだ。
それに、好きだった。
元々、淡い恋情に似たものはあった。それがヒートを境にαとして惹かれるようになり、俺はとうに彼を恋愛対象として恋していた。
それから俺達は付き合い始めた。
穏やかで、優しい付き合いだった。
定期的にヒートは訪れたが、俺は抑制剤で何とか抑えていたし、抑えられず家にいなければならない時にも、彼はやってきては、体を慰めるのを手伝ってくれた。
番を結んでしまえば、発情時の匂い漏れ問題は解決したんだろうが、せめて俺が高校を卒業する迄はと、彼は俺の項を噛むのを我慢してくれた。
俺は噛まれたくて仕方無かったけれど、確かに互いに責任を背負うには、俺達は未だ若過ぎた。
異変は俺が高校に進学した頃に起こり始めた。
俺にストーカーが現れたのだ。
最初は、何故 俺のような平凡なΩに、と 信じられず、思い過ごしかと思おうとした。
けれど、異変は続いた。
毎回知らないアドレスでスマホに送り付けられてくる俺の盗撮画像。
体育前の着替えや、授業中居眠りしてるとこや、下校中の路地で彼とキスしているところなど…。
常にその誰かに見られている、と俺はゾッとした。
身の回りのものが次々と無くなった。無くなると言うか、新しいものに変わった。物が入れ変わった事を勘づかせない為だったのだろうか。
しかし普通にくたびれ具合いでわかるものだから、それは無い気がするから、そんな事をする意味があるのか疑問だ。
1人で帰っていると、常に後ろに気配を感じた。
実際に尾行していたとわかったのは、送られてきた画像の中に俺の後ろ姿のものがいくつもあったからだ。
幼馴染みの彼は2歳上。
大学に通っているし、何時も迎えに来て貰える訳じゃない。俺に出来る対策は、出来るだけ遅くならない内に帰るようにする事くらいだった。
学校の机の中には、毎日のように差出人不明の手紙が入っていた。
好きです。
薄いブルーの封筒の中には、只、その4文字だけが記された
真っ白い便箋。
不思議とそれには嫌悪感は感じなかったのは何故だろうか。
その手紙の事は、実害も無いしと彼にも告げず放置していた。
実際、画像の送り主と手紙の送り主、所持品の交換が同一人物によるものなのかはわからない。
本当に……
本当に、少しばかりの違和感が積み重なっていくだけの日々。
何時の間にか、
麻痺していたのかもしれない。
今思えば、あの時、放置せずに徹底的に調べておくべきだったのだろうか。
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