番外編 てがみのはなし

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番外編 てがみのはなし

「ごめんなさい。」 覚は緋夜に深々と頭を下げた。 「信じらんないよ…信じてたのに…。」 緋夜は俯いて、その手と声は震えていた。 「まさか、あのストーカーが覚だったなんて…っ!!」 「マジで申し訳ございませんでした。」 暴露のきっかけは、テレビを見ながら話していた事だ。 小学生の男の子が、女の子に思いの丈を拙い文字で一生懸命に綴った、いじらしい手紙。 しかし女の子には、他に好きな男子がいるからと断られていて、覚と緋夜は何だか男の子に同情してしまった。 どの世代でも恋って大変だな…。 「前にさ、火傷の犯人、ストーカーだったかもって話した事あったじゃん?」 緋夜が思い出したように話し出して、覚はドキッとした。 「でも実際は春兄のストーカーだったじゃん。で、その人がやらせてた嫌がらせだったし、犯人も雇われた人だったんだろうって話だったじゃん。結局、見つかってないけど。」 「うん。」 「でもさ、他にもあったんだよね。でも、それは俺のストーカーだったのかなあ、って最近思うんだよね。なんか、盗撮とかとはカラーが違ってさ。」 「カラー?」 「悪意があるのかとか、そうでもないなとか、わかったりする事ってあるよね。」 「あー、あるね。」 「俺さ、手紙もらってたんだ。毎日、好きです、ってだけの。 便箋の折り方もきちんとしてて、字も丁寧なんだけど、ずっと同じ、好きですだけなの。」 緋夜は当時を回想しているのだろうか。 目が閉じられている。 覚はヒヤヒヤしながら聞いていた。 「あと、物がさ。無くなる訳じゃないんだよな、取替えられてんの。でも盗られた訳じゃないなと思って…新品と換えられるのって、被害って言えるのかなあって、微妙な気持ちになっちゃって。誰にも言えなかったんだ。」 「…そ、なんだ…。」 やっとの事で相槌を打っているが、ドキドキしている。 冷や汗が…。 「手紙と取替えっこは、同じ人かなって。何か全然、嫌な気がしなくってさ。 考えてみたら、ちょっと律儀で真面目そうな人じゃない?ストーカーだけど。 でも、俺を傷つけるような事する人だとは思えなかったんだよね。 一緒くたにして犯人だと思ってたの、申し訳なくなってきちゃってさ。」 「……でも、ストーカーなんでしょ?」 目が落ち着いてくれない。視線が泳ぐ…。 「そうなんだけど…。 でも俺さ、実はその手紙、全部取ってあってさ。実家に。」 「へっ?」 ストーカーからの手紙を取って置いてある?あ、証拠品の保管?って事? 覚の頭には?が渦巻いた。 「な、なんで?」 一応聞いてみよう。 緋夜は本当にたまにびっくりするような弾を撃ってくるな…。 「だって…なんかちょっと、嬉しくて。 あの頃春兄を怖がらずに俺にそんなのくれる人なんて、いなかったからさ。」 えへへ、と照れたように笑う緋夜。 えええ~…。 そうなの? 「初めて覚がDMくれた時さ、何かすごくその手紙の文とダブっちゃってさ。 それで気になっちゃって会ってみようと思ったって言うか…。」 「………。」 「…覚?」 覚は考えていた。 もしかして、今? 白状するなら、今じゃない? 「ごめん、緋夜。」 「え?」 「そのストーカー、俺です。」 「ん?」 「…俺、高1の途中から緋夜と同じ高校に転校しててさ…」 「へっ?!」 今度は緋夜がびっくりした。 「えっ、じゃあ〇〇高校って言ってたのは…?」 聞いてたのは有名私立高校だった筈だが…。 「最初の学校…。」 「なら覚、いたの?ウチの高校に?!」 「いました。隣の隣のクラスに。」 「マジかあ~…。なんでこんな目立つ人に気づかなかったんだろ?」 「…俺、未だ成長途中だったし、メガネとかかけて地味にしてたから…。」 「…まぁ、俺もあんま周り見るタイプじゃなかったしね…。 覚えてないのは不覚だったよ。 でも…だからって…今迄黙ってるなんて…。」 やばい。いけると思ったのにいきなり雲行きが怪しくなった。 覚は慌てて頭を下げた。 「ごめんなさい。」 そして、冒頭へ…。 緋夜は小刻みに震えていた。 相当ショックだったのか、と覚は項垂れる。 「本当に…怯えさせて…ご…」 「ぶはっ」 緋夜が吹き出した。 大笑いしている。 どうしたの緋夜…。 怒ってない…の? 一頻り笑って気が済んだのか、緋夜は笑い過ぎて出た涙を指で拭いながら言った。 「やっぱり覚ってすごいね。」 「え、なにが?」 覚の頭には、再度?が吹き荒れる。 「覚ってさ、たまに信じらんないような事投げてくるよね。」 それはお互い様では、と覚は思った。 「でも、」 緋夜は続ける。 「そんなに前から、俺を好きでいてくれて、ありがとう。」 覚は一気に目が潤んだ。 「俺こそ、ありがとう。」 緋夜を好きになって良かった…。 「覚を好きになって、良かった。」 やっぱり俺達はお互い様だ、と覚は泣きながら笑った。
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