如月相談所Ⅱ〜走〜

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 「えっ」と、沙羅は声を洩らした。  おじさんは信仰深い面もあるが、人にこう言ったものを勧めることはない。違和感を感じる。 「えぇ。明莉の言う通りです。しかし、騙そうと思ったわけじゃないです」  やっぱり、だ。おじさんにはおじさんの考えがあった。沙羅は呆然としている。 「少し、お話していいですか?」  おじさんは真剣な表情でそう言った。沙羅は小さく顎を引いた。  コーヒーでも入れようかと思ったが、席を外したくない。ただ、二人が話しやすいよう一歩離れた場所に立った。 「僕は、高梨さんに足りないものは自信だと思っています。高梨さん、あなたは以前小さな大会で結果を残せなかった、と仰っていましたよね」  はい、と沙羅は頷いた。「でも……」と困惑したように続けた。 「言われて思い出したくらいで、ダメージないと思うんですけど……」 「いえ、あったんだと思います。気付いていないだけで。例えば──数日前に何気なく見た夢が昨晩の夢に出たりしませんか? 僕は心理学などのプロではないのでハッキリと断言は出来ないのですか、ダメージが少々の時差を経てあなたの中に湧いてきたんだと思います」  沙羅は唇を噛み締めた。瞳がくるんと回る。雫が溢れそうだ。沙羅に歩み寄ろうとしたとき、おじさんはそっと目配せをしてきた。私はその場から動かないで黙ることにした。
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