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「沙羅、この人が私のおじさん。なんでも相談乗ってくれるから」
「う、うん……」
おじさんは優しげな目を細めた。
「はじめまして、いつも姪がお世話になっています。如月楓と申します」
「は、はじめまして……こちらこそ、その、お世話になっています……えっと、高梨沙羅、です」
ぺこり、と沙羅は頭を下げた。短い髪が肩に触れた。
なんだか、恥ずかしく私は首を掻いた。
「二人とも、座ったら? お茶、出すよ。沙羅コーヒー飲める?」
「うんっと……カフェオレなら」
分かった、とうなずいて、そそくさと給湯室へ入った。
おじさんはブラックコーヒー、私たちはカフェオレ。おじさんは普段ブラックコーヒーを飲む。甘いのは苦手らしい。
いつもの手順で淹れていく。すぐにトポトポ……とコーヒーがしたる音ともに芳醇な香りが鼻をくすぐった。バイトを始めた頃は不慣れですぐにお客さんに飲み物を提供できなかったが、今では我ながら手慣れていると思う。
「お待たせしました」
沙羅の前にマグをことりと置いて、次におじさんの前にも置いた。
わぁ、と沙羅は歓声をあげた。
「このマグ、かわいいね」
「えへへ、これ、私が選んだの」
おじさんのマグは黒のシンプルでクールなものに対し、沙羅に渡したのは薄いクリーム色をベースとしたマグだ。隅にはちょこんとウサギが描かれている。最近、お客さんにあった雰囲気のマグで飲み物をお出しするよう心がけている。落ち込んだ人には優しい橙色のを、明るい感じの方にはひまわりの柄のマグを。
「──美味しい」
沙羅はホッと息をついた。良かった、と私もマグを傾ける。
おじさんはいつもどおり少し口に含んで、ゆっくりと口を開いた。
「さて、どうされましたか?」
沙羅はコトリとマグを置いた。俯いて、肩を震わせながら、か細い声で話し出した。教室や校庭での姿とは全く違う。
「その……走れないんです。走り出せないんです……」
おじさんは、はて、と首を傾げた。
「もう少し、伺っても?」
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