フィクタ<夢か、現実か。>

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フィクタ ――はじめに―― ――そうか、これは…私の…… 「うわぁぁぁぁぁ」 ――1話―― ピピピピピピッ カチッ んん、もう朝か。今日は2019年12月14日、私の誕生日だ。まぁ誕生日だとしてこの歳でそこまで喜ぶものでもないのだが。よし、今日も潔く仕事いくか。 「…行ってきます。」とうなだれつつ、私は家を出た。今日はやけに静かだな。いつもならもう子供の甲高い声が住宅街中に鳴り響いているはずだが。 やはりおかしい。辺りを見渡しても人影すらない。 会社に行っても誰もいない。ここは都会だ。誰とも会わないなんてありえない。私は縋るように走り始めた。 居ない。居ない居ない居ない居ない居ない居ない。 息が出来なくなるほどに走った後、急にどうでも良くなってきて、そして、開き直った。 「良いじゃないか、これは夢だ。仕事を押し付けてくる上司も迷惑かける後輩もいない、むしろこの状況を楽しんでやろう。」と。 「うぉぉぉぉぉぉぉ!」 私は叫んだ。この自由は離さないとばかりに叫んだ。大声で叫んだのに誰も来ない。やはり夢だ。思い切り叫んでやろう。そうして私は叫び続けた。 「このクソ上司がぁ!こき使ってんじゃねぇぞ!」 「僕を舐めんなぁ!」…… 喉が枯れる程叫び終えた後、私は公共物を壊していった。それから、食べ物やDVDなどを盗んで行った。大丈夫これは夢だから、と。 ――そして暴れて暴れて暴れまくったあと、とてつもない虚しさに覆われた。 驚いたな、あんなにも大嫌いだった人間たちが恋しくなるとは、驚いた。 …それにしてもこの夢、いつ終わるのだろうか。長い時間居る気がするが。早くいつもの平凡でつまらない毎日を迎えたい。そう願った。 「……て…みず……」 なにか声がした気がした。 だけどまぁ気のせいだろう。ここには私一人しか居ないのだから。そう思いつつ、私の意識は段々と途絶えていった。 ――パチッ 目が覚めるとそこはいつもの天井…では無く、だだっ広い空が見えた。まさか、と思いはね起きるとそこは夢の中で暴れまくっていた交差点のど真ん中だった。いやでもあれは夢のはず…あぁそれはただ単に私が勝手に仮定していただけなのか。これが夢じゃないとしたら、明るさからしてさっき寝てからそんなに時間は経っていないだろう。信じがたいがこれは現実だ。というかそう捉えるしかない。はぁ、今だったら幽霊とか非科学的なものも信じれそうだ。 ――2話―― ――時間が経ち、私はこの状況をある程度理解した。まず、食料はコンビニとかを漁ればしばらくは何とかなる。そして次に動物園を見に行った。時間が経つと動物達が外に出てきて、もしそうなったら本当のサバイバル状態になりかねないからな。…と思ったが動物は居なかった。だが、雑草が生えているあたり、植物以外の生命は私以外の人間と同様に居なくなってるみたいだ。まぁ、暫くは苦労せずに生きていけそうだ。だが、幾つかずっと思ってた疑問がある。なぜ私だけがこの世界にいるのか。他の人間はどうなったのか。そしてなぜ私なのか。まぁそれも後々考えていくとするとしよう。…はぁ誕生日の日起きたら誰もいなくて、サバイバル生活の始まり…とんだ悪夢だな。 そう考えると同時に先が見えないという恐怖に耐えられなくなりそうになった。 「…が…起き…ない…」 !?やはりさっき聞こえたのは空耳じゃないのか?ということは他に誰かいるのか? _辺りをを見渡したが誰もいない。何だったんだ。…でも聞き馴染みのある声だったな。 ――3話―― 今は…夕方の五時位だろうか。確認しに行くか。さっき見たが、交差点の近くにある一つの時計台以外全て時計の針が止まっているのだ。なにか私だけが居る理由と関係しているのだろうかと思ったが、そこはまだ分かっていない。そうしている内に、案外早く時計台に着いた。 三時半か…思ったより進んでないな。 本当の孤独を得たからなのか、とても時間が遅く感じる。こんなにも人が居ないことが苦痛だとは。 ――いっその事死んでしまうか。 だが痛みという恐怖のせいでそれは出来そうにない。それに元々人間というものは自然と人を殺したり意図的に死ぬのに抵抗があるはずの生き物だ。まぁイレギュラーも居るが。 嗚呼、早く時間が進みそのまま自然と意識が途絶えてしまえば良いのに。それか、元の私以外の人間がいる場所に戻りたい。神様なんてものは、あまり信じていなかったがこの状況では祈るしか出来ないな。 「…このまま……死……く……かな」 ――4話―― 「…このまま……死……く……かな」 さっきの声だ。何処から聞こえてくるのかは分からないが、幻聴では無い。何か聞こえるのに必要な鍵があるのか?一度記憶を辿ってみるか。一回目の声は叫んだ後交差点の真ん中で座り込んだ時だ。二回目は状況整理をしていた時だったな。三回目はらしく無いが、祈りを捧げていた。共通性はなさそうだが。はぁ何で私はこんな事を推理し無ければならないんだ。こんなものをずっと考えていたらヤケになってこじ付け気味な共通性を思い付いてそこから出られなくなってしまう。いつまでこれが続くんだろうか。一生だろうか。そう思うと嫌気がさして現実逃避してしまいたいと思った。 そのとき 「……三年」 …聞こえた。そしてあんなにも分からなかったことがついに分かった。 感情だ。 この状況に対して恐怖を感じたり諦めの意思や、普通の平凡な日常を過ごしたいと思う負の感情が鍵となり声が聞こえてくるのだ。 だが何故感情に左右される? 「………………」 …これは正直考えたくないが 「この世界は自分の精神世界なのかもしれない」 ――5話―― 「この世界は自分の精神世界なのかもしれない」 そう考えるたら感情で左右されるのも、私以外誰もいないのも納得がいく。私以外誰もいないのは私が人を嫌いだったからだ。全て理解した訳では無いが大きく状況が変わった。 「……グスッ」 まだ声が聞こえる。状況が進んでも、無意識に平凡に生きたいという意思が残っていたのだろう。もう少し聞けばなにか解るかもしれない。 「…あの事故が起こってから三年…そして今日は事故が起きてから三回目の誕生日……このまま起きないで一生を迎えてしまうのだろうか……」 初めてちゃんと聞こえた。ここが精神世界だと確信したからだろうか。「あの事故」?そう疑問に思った時、 )ズキッ 頭の割れるような痛みに襲われた。 そして脳内に、物凄い量の映像が流れ込んできた。 ……この映像は私の記憶だ。 今まで何故忘れていたのだろう。2019年12月14日土曜日私は…… ――大型トラックに轢かれ、事故に遭った。 ――6話―― 私はトラックに轢かれ、事故に遭った。 …事故に遭った…12月14日…精神世界…… ――全ての歯車が噛み合った。―― 現実での私は恐らく 植物人間となっている。 声が聞こえたのは平凡に戻りたいなど意志を持ったから意識が現実の方に戻りかけたのだ。だからもっと強い意志を持てばこの世界から出れるはずだ。 次にこの交差点、私が事故に遭った場所だ。だから唯一時計が動いている場所だったのだ。 そして、事故に遭った日が2019年12月14日、そしてこの精神世界での今日の日付も2019年12月14日…だが現実ではもう三年経っている。ということは、私はこの世界を 三年間ループしては、記憶をリセットしている事になる。つまり私は今までしてきた行動を毎日繰り返しているのだ。そして同時に毎回ループしている事に気付き、結局三年もの間 此処から現実に戻っていないということでもある。 強い意志を持っても戻れなかった…のでは無い。 戻らなかったのだ。今の私にはそれが分かる。さっきまで戻りたいと強く願っていたのが今は無い。戻ったところで、動けるかどうかも分からない。金は?住まいは?そんなこれからどうなるか分からない不安で仕方ない人生なんて送りたくない。それならいっそ同じ事を繰り返す、それこそ平凡でつまらない毎回リセットされる一日を過ごした方がマシだ。 それにそもそも戻れるかどうかさえ分からないじゃないか。失敗したらどうする?また精神世界に戻れるとも限らない。 あぁもうすぐで日付が変わる。そうなったら勝手に意識消えて起きてリセットされた自分になるのだろう。日付が変わるのをただただ交差点で待っていた 5,4,3,2,…1. ――7話―― ピピピピピピッ カチッ んん、もう朝か。今日は2019年12月14日、私の誕生日だ。
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