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学園へ行こう
(あ~、ま~じで山の中だよなあ~…。)
数日の熟考の末、結局俺は殿下に遡行の件は話さないまま、学園へ予定通り入学する事にした。
遡行してきた事を話して協力を仰げるか冷静に考えてみたが、俺大好きらしいあの変態が、水面下で密かに事を運べるとはとても思えなかったからだ。
それに、距離が近くなったと思われた途端に遠くの学園に数年行くのをごねられた。
毎日ウチに来られてウザい。
こうなると正直、学園に身を隠す方がある意味安全にも思える。
パーティーで殿下が俺を優先し、気遣いを見せた事は、皇太子の婚約者としての俺の立場が遅ればせながら確立されたという事だから、これで入学しても 表立って俺に嫌がらせをしてくる連中はいない筈だ。
もしかしたら殺される未来も回避出来たのかも…とも考えたが、衣装が届かなかった事と、毒殺された事は、他のちゃちい嫌がらせとは、次元が違う気がする。何だか同じ匂いを感じるのだ。上手く言えないけど。
だって、皇家からの届け物って、専用の車で厳重な警備が付けられて、皇宮から直で来る。そこに横槍を入れられるのって、それなりの力が無きゃ出来ない事だし、悪戯や嫌がらせ程度の事で出来る事じゃない。
そもそも皇家がちゃんと衣装を送り出してないんじゃないの?
ってのも、有り得ない。
皇宮できちんと予定の立てられた事は、余程の事が無い限りは変更される事はない。
やはり来る途中で何らかの妨害があったと見るべきだと思う。
俺の毒殺にしても、そうだ。
既に殿下に捨てられた婚約者を、わざわざ殺そうと思うだろうか?
元々の殿下の俺に対する執着を知っていて、万が一の俺の返り咲きを恐れた誰かが、やはり念の為に殺しておこうと考えたんじゃないだろうか。
あくまで推察に過ぎないけれど、何か政治的な匂いがするのは気の所為だろうか…。
もしそうだと仮定するならば、俺の存在を邪魔だと思っている誰かがいるって事なんじゃないのか。
それも、かなり力を持つ、誰か…。
(俺が婚約者だと、困る誰か…。…単純に考えれば、凡そ見当はつくけど…。
でも、滅多な事は言えないもんなあ…。)
そうだ。滅多な事は言えない。
断定するにも材料が無さすぎる。
そして、もし本当にそういう理由で狙われているとするなら、表にいようが学園にいようが同じだ。
寧ろ、それがわかっているなら、まだ狭い学園内にいる方が対策は出来る。
とまあ、無い頭で散々考えた末、俺は現在学園に向かう車内にいる。
わかってたけど、車窓からの景色は、木々ばかり。
学園は何故だか世俗から隔離されたかのようなお山のてっぺんにあるからである。山城かよ。まあある意味城だな…。
それにしても先刻、家を出発する時の、駄々を捏ねている殿下の泣き顔は酷かったなと思い返す。
見送りは結構です、と断ったのに来たし、何なら学園迄送りたいと言い出したのを兄が何とか説き伏せたのだ。
幾ら卒業生とはいえ、当日になって皇族が来るとなれば学園側の負担は大きい。
まさか皇族を、送ってきたならもうお帰り、と門前で帰すなんて事ができると思われますか?的な。
しかも前回、入学前で土壇場で婚約破棄された時と違い、今回は皇太子の婚約者という立場のまま入学する俺に、学園側はかなり緊張している筈だ。
公爵家の次男とは言え、扱いは準皇族。
今頃は部屋の準備や、何か手抜かりは無いかとてんやわんやだろう。
そんな時に皇太子本人迄とか、迷惑でしかないべ。
…そういった事を、噛み砕いて説得していた。
見ている両親も呆れていたし、兄が不憫になった。
この先の人生、あんな上司のお守りで生きていくなんて苦行じゃん…。
俺は早く離脱したい。
言っとくが、18歳迄は我慢するという言葉、俺は全く信じてないんで。
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