335人が本棚に入れています
本棚に追加
嫁がほしい
(あ~、嫁が欲しい。)
家の前の掃き掃除の手を止めて、うららかな青い空を見上げる。
良い天気だ。
直ぐ傍の大樹の枝で小鳥もピーチク鳴いてる。…何だ、番いじゃん…お前らもカップルかよ。
俺、リク・カルデアは18歳の健康な平民男子である。
平民と言っても、祖父ちゃんの代迄は貴族だったって話だけどね。
起死回生を図り、手を出した商売に失敗してまんまと没落したって聞いてる。
まあ俺が生まれた時はとっくに平民だったから、貴族の暮らしも知らなきゃ知り合いもいない。
親族とも縁が切れてるらしくて全く見た事も会った事もない。
元貴族の名残りみたいなものと言えば、直系によく出るって言うこのプラチナブロンドの髪と淡いグリーンの瞳くらい。
容姿はソコソコだと思うし、家の手伝いで小さい頃から力仕事もしてるから体だってまあまあの筈なんだけど、全くカノジョができた事が無い。
まあ、その内自然に出来るだろ、とタカをくくって積極的に動かなかった俺も俺だが、それにしたってちっとも良い雰囲気になる娘がいない。
少し仲良くなったかと思ったら何時の間にか周りの誰かのカノジョになっている。何故だ。もしや経済的理由か?
だが、ウチは親父の代から始めた小さなホテルで生計を立ててるから、金や財産がある訳でもないけど、別に普通に暮らせてるし、結婚じゃなく恋愛関係だけならそこは問題にならない気がする。
普通は学校に通ってる間とかに告白されたり恋人のひとりも出来るもんじゃないのか。
実際、周りの悪友達はそれなりに恋愛を楽しんでいた。
色恋に縁が無いのは俺ひとり。
悪友達にも親にも首を捻られている。
ソコソコなのに、何故だろうな?と。
母さんなんか、
「リクのお嫁さんはカデナさんにお見合いを頼んどくしかないわねえ…。」
とか言い出してるし…。
え、普通に嫌なんだけど。
カデナさんてあの、近所のお見合いオバサンだろ。
頼むと微妙な相手を斡旋してくるんだけど、全然タイプじゃなくて断ろうとしても何故だか結婚に漕ぎ着けてしまっているという…。怖…。
それでもくっつけられて幸せになるなら良いだろうけど…。
俺、カデナ婚で嫁取りしたって人、何人か知ってるけど 皆ゲッソリ青い顔してるから、絶対良い結婚ではないと思うんだよな。尻に敷かれるのが悪いとは言わないけど、程度問題ってあると思うんだわ。
俺は美人が良いとか贅沢は言わないから、普通の優しい娘と結婚したい。
そんで出来れば新婚生活くらいは甘くラブラブしたい。
普通で良いんだ、普通の娘で。そんで俺を好きになってくれるんなら、絶対好きになるし尽くすんだけどなあ~…。
「リク、お客様お発ちだよ!」
「は~い。」
掃き掃除をサボってぼんやりしてたら後ろで従業員用のドアが開いて親父が声をかけてきた。
そろそろチェックアウトの時間か。
俺は急いで竹箒を仕舞い、客用出入口に急いだ。
「ありがとうございました。
行ってらっしゃいませ、
良い旅を。」
出ていく客にピシッと礼をして送り出す。
作法だけは祖父さんに叩き込まれたから、俺の接客は評判が良い。
送り出しの時なんか特に、客は へえ…と意外そうな顔で、ありがとうと言いながら去っていく。
御年寄りのお客なんか、ほお…と感心したり。
そういう反応を見てると、余計にまじまじと思う。
(やっぱ俺、トータルでは、悪くない物件だと思うんだけどなあ…。)
と。
あ~、普通の可愛い嫁さん、欲しいなあ。
最初のコメントを投稿しよう!