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ありが…ち?
何故だか男の俺の裸を必死に隠そうとする大智と、どうにか見てやるぞと変な意気込みを見せる優希をよそに、着替えを済ませた。
高校からずっと愛用してるヨレヨレのスウェットである。見ろよこの絶妙な襟ののび。
最近のシャレオツスウェットでは逆立ちしても出せまい。
勿論、カラーは変わらぬ安定感、グレー。
俺はチャラついた時代の流行なんてものには迎合しない男なんよ。
しゃらくせえ。
俺はこれで近所のコンビニにだって行く。
ひとまず大智と優希に服を着せてリビング…リビングなんて立派なもんでもないけど、まあソファ置いてる部屋に移動。
普通に優しい俺は2人に麦茶をグラスに注いで出してやる。冬だけど。
落ち着かない様子でソファに座っている2人。真ん中の小さな丸テーブルの上に麦茶を置いてやると、ありがとう、と礼を言われる。
コイツらこういうとこはちゃんとしてんのになあ。
静かにソファに腰を下ろして、俺はゆっくり口を開いた。
「とりま、ウチの親には俺から婚約解消の話はしとくね。」
「いや待って!!?!!」
俺はいつも結論から言う男だ。
裁判だって親切にも有罪判決の時は真っ先に言ってくれるもんだから俺もそれに倣った形だ。
しかしそこに間髪入れずに被せてくる大智。
お前、空気読めよな…。
「何?」
「いや本当に待ってお願い。お願いします。
本気じゃなかったから。本当に、今日会ったばっかの奴で、名前も知らないんだって…」
「…え?何処の誰か知らないままに刹那の関係を持とうとしたって事?即物的…怖…」
まさか、今までも同じ事してたんじゃないだろうな?やば、、、明日半休取って検査行かないと…。
「お前も定期的に性病検査した方が良いよ?早目にわかる方が」
「穂積…」
声が上ずっているように聞こえて、ハッと大智を見ると、男前のイケメン顔の目が充血して薄らと涙が。
「…してない、ほんとに。こんな事、今日が初めてなんだ。誓って。
なんでこんな状況になってるのか、さっきも途中まではっきりとは覚えてなくて、」
こんな口篭りながら話す大智は初めて見た。
確かに嘘じゃなさそうだ…。
考えてみれば、大智は男前だが繊細な所があるし、何より俺には絶対嘘をつかない大型犬のような男だ。
何せあれだけの負の男遍歴を重ねた俺が今度こそは大丈夫…と6度目の婚約を決めたくらいなのだ。
となると、…。
「あーあ、バレたか…」
今までニヤニヤしながら成り行きを観察していた優希が面白くなさそうに口を開いた。
「せっかく俺のケツまで犠牲にしたのに~。」
頬を膨らませる優希。
相変わらずの色男だが、その表情で全てが台無しだ。
「あれだけの事でアッサリ俺を捨てていなくなっちゃうんだもん。やっと見つけたら、こんな木偶の坊を引っつけちゃってるしさあ…。」
ムカついたんだもん。
面白くなかったんだもん。
俺の方が絶対づみを好きなのに。
親指の爪を齧りながらブツブツ恨み言を呟く優希。メンヘラも相変わらずなんかお前…。
「一服盛って既成事実を作って脅すつもりだった?」
俺に最初にしたみたいに?
そう言うと、クシャッと表情を崩して優希は笑った。
「うん、そう。
その木偶の坊も裏切り者だってわかれば、づみはきっとソイツも捨てるって思ってさ。」
だって、俺の知らないとこで知らないやつと幸せになんか、嫌だし。
俺は今でもこんなに好きなのに…。
優希の言い分を聞いて、俺は頭痛がした。
コイツ、全く成長してねえ~…。
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