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優希という男
この面倒くさいメンヘラ…
松田優希という男は、その恵まれた容姿で赤ん坊の頃からチヤホヤされ、小中では美少年だとチヤホヤされ、高校大学では美青年とチヤホヤされ、とにかくチヤホヤ道を歩み続けた(本人談)、 筋金入りの我儘メンヘラ男である。
その反面、性格がアレ過ぎるが故に、固定で付き合いたい…という人間は男女共に、おらず…。
稀にそういう珍しい種族…じゃない、人間が現れても、綺麗な見た目からは想像出来ない厄介過ぎる性格の為、長続きはしない。そういう事故物件みたいな男なのだ。
そしてそんな男に進学先の大学で出会ってしまった俺は、塩でも砂糖でもないフラット対応が新鮮だったらしくうっかり気に入られ、妙に固執されるようになってしまった。
しかし俺は、自慢じゃないが、奇跡のモブ。
優希と出会った頃は遠恋の彼女がいたし、別れたらそれを見計らったようにサークルの先輩(男)に告白されて付き合う事になったし、何やかや浮気されては別れ浮気されては別れではあったものの、カレカノは絶えなかった。
結局業を煮やした優希に宅飲みで一服盛られて抱かれてしまった俺は、当時まだ付き合って3日目くらいだった何代目かの彼氏に、謝罪して別れる羽目になった。
事情が事情だっただけに、その彼氏は忘れるから別れたくないと言ってくれたが、浮気即斬、を信条とする俺自身が、罪悪感に耐えられなかった。
彼にはつくづく本当に申し訳無いことをした。
当然の権利として俺は優希を殴ったが、反省した優希の、ぐしゃぐしゃに泣きじゃくりながらの告白に、不覚にも心が動いてしまって。
今にして思えば、そこで付き合うべきじゃなかったんだよなあ…。
振り向いて欲しかったんだもん!
強硬手段に出なきゃ、いつまでも気づいてくれないじゃん!!
付き合えないなら生きてたって仕方ないから!!死ぬから!!!
……という、ほぼ脅迫めいた告白に、そんなにも俺の事を好いてくれてるのなら、付き合っても浮気されないかもな~…
という、打算的且つ不純な動機から始まった関係が、歪んでいない訳なかったのを、その時の俺は気づけなかったのだ。
つきあい出した優希はとにかく独占欲の塊だった。
見た目はゆるっとした、やや中性的な雰囲気を残したソフトな美形なのに、すごい野獣。
外でも何処でも自分が不安になったら瞬時に唇を奪いに来る。
確認と言っては、連れ込まれたトイレの個室内で脱がされて前面背面ひっくり返されて、自分が付けた場所以外に見覚えのない痕が無いかをつぶさに点検される。
夜は夜で、玄関入ってすぐ唇を貪られる、ぺ○スを扱かれる、咥えられる、果てはそのままドッキング、なんてザラだったから、優希との恋人期間はマジで体力勝負の毎日だった。
乾く暇もないほどズコバコ犯られるので、自然に濡れる訳でもない俺のアナ○はローションの仕込みが欠かせなかった。
でなきゃ冗談じゃなく大惨事だったのだ。
あの頃その辺のケア頑張ってなきゃ、今頃俺は痔持ちだった筈だ…。
てな感じで、病的なほど執着されて、毎日のように俺を抱き潰してる男が…まさか浮気なんてしてるとは、夢にも思わなかったわい。
別れる事になったきっかけは…確か、見た目にそぐわず丈夫が取り柄の俺が、数日体調を崩して…学校もバイトも休んだ事があった。
どっちも休むくらいだから、勿論夜の方も勘弁してくれって感じになるのが当然だと思うんだが、優希は違った。
肉体関係を愛情確認の最上級のものと考えてる優希。
寝込んで具合いの悪い俺にお断りされて拒否と捉えたアイツは、ぶっちゃけ子供である。
…いやまあ、実際、子供なんだよな…
精神的に成長してない。相手の気持ちや状況より、自分。自分優先。
好きだとか言ってる俺の体調より、自分の気持ちを無碍にされた!!だからな…。参った。
そんでちょっとした喧嘩になり、優希は部屋を飛び出しその後2日帰って来なかった。
LINEも電話も無し。
で、次に会ったのは、やっと講義に出られるようになった、数日ぶりの大学の構内。
わざわざ友人と俺が食事をしている学食に女連れでイチャイチャしながら現れて、俺をチラ見しながらその女とキスをした。
その時優希の首筋に真新しいキスマを確認した俺は、スッと醒め…。
食べ終えた食器を返却する為に無言で立ち上がった俺は、返却口の途中の席にいた優希の横で立ち止まり、ニヤニヤしながら見上げてきたその目をしっかり見据えて、告げたのだった。
「別れような。」
出会って3年以上、友達という立場で片想いしていたらしい優希は俺の性格をよく知っている。
俺が、冗談でこういう事を言うような性格では無い事も。
テーブルに置かれていた優希のキーケースから俺の部屋の合鍵を抜き、自分の財布にしまう。
小馬鹿にしたようなニヤけた笑い顔から余裕が
消え、鳩が豆鉄砲を食らったような顔になったかと思えば、みるみる血の気が引いて、唇が震え出したそのさまを今でも覚えてる。
顔面蒼白。
浮気相手と思しき隣の女は、その様子を見て何とも言えない顔になり、周囲の視線に耐えられなくなったのか、気不味さ全開でそそくさと去ってしまった。
…公衆の面前でキスは出来ても、こういう空気は無理なのか…。
変わったコだな。
そしてその晩俺は隣県の実家に直行で帰った。
俺とて、醒めたと言っても全く傷つかないって訳ではないのだ。
実家の猫に足蹴にされながら腹を吸わせてもらって傷心を癒してもらう必要があったのだ。(30分)
その後は 数ヶ月後の卒業に合わせて時間帯を見て引越しの段取りをするのに数回マンションの部屋に行っただけで、卒論提出済みの大学には、殆ど行く機会も無く。
それ以降、優希に会う事は、今日まで1度もなかったのである。
それが、どうして、今頃。
べそをかいている大智を軽く蹴りながらヘラヘラ笑っている優希を眺め、俺の疑念は深まるばかりだった。
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