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優希の結婚生活
「こないだまで、ちょっと結婚しててさ。」
優希は聞き捨てならない事をカジュアルに言い放った。
優希の話を要約すると…
食堂で俺に別れを告げられてから優希は鬱状態になった。
それに気付いた両親に心療内科に連れていかれたのだが、そこの心療内科医の女性がそりゃもう俺に似ていたらしい…。
そりゃまあ、どこにでもいそうなモブ顔だからね、俺。
旅行先で似た人見たとか、行ったカラオケ屋の店員さんに似た人いたとか、もうしょっちゅう報告されるかんね、俺。
ともあれ、通院する内にその俺似の心療内科医さんに惹かれていった優希。
とうとう交際を申し込んだという。
本来なら患者とそういう関係にはならないと決めていた俺似さんも、綺麗な顔で真摯に口説かれてる内にコロッと陥落しちゃったらしく、結構トントン拍子に結婚まで進んだのだと言う…。
「…え?良かったじゃん。めでたしめでたしじゃん?
それが何で、今俺の婚約者にカマ掘られてんの??」
疑問過ぎて思ってた事がうっかりそのまま口から出てしまった…。
「うーん…なんつーか、思ってたのと全然違ってさぁ…。」
結婚生活を思い出しているのか、眉間を指で押さえながら目を閉じている優希。
「違ったってどーゆう事だよ。穂積に似た女と結婚出来たんだから、それで御の字だろ。贅沢ゆーなよ。」
これまで空気と化していた大智が横槍を入れる。
そうか?モブ似と結婚して御の字とか、ある?
もうちょい高望みしても罰はあたらないんじゃない?君らの顔面偏差値なら。
別に自分を卑下する訳じゃないけどさ。
と、思いながら優希を見ると、苦々しい顔をしている。
「最初はづみと似てるって思ったんだよ。カウンセリングの時とかもさ。俺の顔にも、動じなかったし、クールで…」
「…基準、そこなんだ…?」
…え、俺、そんな感じに思われてんの?
「なかなか落ちてくれないのも良かったし、髪も似たような茶色のショートでさ。使ってるトリートメントのメーカーも同じだったし、たまに眼鏡掛けてんのも同じだったし、コーヒーにバカスカ砂糖入れてんのも同じだったし、胸も殆ど真っ平らで…」
…んん?
「あと、白衣の下、いつもスウェットだった…。」
「グレーか?」
「グレーか黒。」
「それは…仕方ねーな…。」
優希と大智が頷きながらなんか会話してるけど、お前らさっきまでずっぷし挿れたり挿れられたりしてたよな?
見えたか今のOLの下着の色…みたいに会話すんじゃねえやい…。
「だから多少の事は目を瞑って結婚しようと思ったんだよ。今度はちょっとやそっとじゃ逃げられないようにしなきゃと思ってさぁ。」
俺も色々考えたの、とドヤ顔しているが、お前は根本的に間違ってる。
拘束手段みたいに使うな結婚を。
「なのに婚約したくらいからどんどん変わっちゃって…」
先ず、髪を伸ばし出した。
完全にコンタクトになった。
お化粧に気を使い出した。
それだけでもちょっと気に入らなかったらしいが…。
「極めつけは、結婚したらスウェットが白とピンクで色違いのお揃いのを用意されて…。」
グレーも黒も着なくなって、髪も長くなって、化粧の香料の匂いがするようになって。
「幻滅したから離婚した。」
「………」
「………」
お前…お前、それは…それは、かなりひどいぞ…。
彼女からしたら、突然こんな綺麗な男にアプローチされて恋仲って事になりゃ、今まで通りって訳にはいかないなって考えたのかもしんないじゃん。
俺は男だし、これ以上自分を飾ろうって気も無いから平気だったけど、いくら地味で洒落っ気が無いったって普通の女子なら、コイツに釣り合うように少しでも頑張らないと…って、見た目に気を使い出すのも仕方ないと思う。
つーか、普通に喜ばしい事なんじゃないの?
恋人や嫁さんが綺麗になろうって努力してんのはさあ…。
ぐるぐる考えていたら、大智が気の毒そうに相槌を打ってた。
「…そっか。それは、仕方ねーよな…。」
「だろ?」
「仕方なくねーわボケナス。」
2人にビックリされて俺もビックリする。
いや、変な事言っちゃたったかと一瞬直前の会話を反芻したけど、間違いなく変なのお前らだかんね?
「普通、こんなヨレスウェット、新婚家庭で着る奴いねーわ。」
男でもな!!
俺だって結婚したら流石にこれ捨てるわ。
…多分、捨てるわ。
……いや、捨てる努力はするわ。
…………まあ、捨てなくてもどっかにしまって着ないわ多分。
つーか、そもそもの話、そんな部屋着の色如きに何故お前らは拘ってんのよ?
「そうかなあ…。」
「そーだよ。」
「「そうかなぁー?」」
「………。」
2人って結構気が合うんじゃねえのか。
もうお前らで結婚したらどうだ。
「でも…俺には最後の譲れない一線だったんだよ…。」
「だよな、わかる。」
…俺にはお前らの譲れない一線の定義が分かんねーわ。
※もう少し続きます。
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