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「では、次の授業までにレポートを完成させておくように」
鐘が鳴るなか、教師はそう言って教室を後にする。
「歴史のレポート、かぁ……」
勝は独りそう呟く。歴史が得意教科とは到底言えない勝は、何について書こうか悩んでいた。
「歴史上の人物の恋愛……うーん…これは違うかな」
生まれてこの方、一度だけ一目惚れした程度であった勝は、自分が書くべきはこのテーマではないことを悟った。
ひとまず彼は、幼少期から馴染みのある書籍類から情報を集めることに決めた。
翌日、彼は高校の近くに建つ図書館へ向かった。外観はかなり古そうに見えるが、内観はとても美しい。テーブルと椅子が綺麗に並び、本も見える限りぎっしり詰まっている。乱れた場所が一箇所もない、不思議な図書館だった。
「こんなきっちり……一体誰がこんなにしてるんだ?」
勝はそう呟きつつ、カウンターに向かった。
「あの、すみません」
「はい、どうされましたか?」
「歴史のレポートを書きたいんですけど……何かぴったりなものって…?」
「なるほど、わかりました。ご案内しますので、こちらへどうぞ」
受付の女性はそう言って、カウンターから出てきてくれた。彼女の胸元のプレートには『碧』と書かれている。きっとこの女性の名前だろう。
そんなことを考えている勝ではあったが、図書館に来てからというもの、一つ気になることがあった。それは、自分以外に人間が誰一人いないこと。今は土曜日の午前中。図書館なのであれば他に数人いてもおかしくないはずなのに、誰も見かけないのである。本当に不思議な場所だな、と勝は思った。
そうこうしているうちに、女性の足が止まった。どうやら目的地に到着したらしい。そこには大きめの鉄製の扉があった。
「どうぞ、こちらにお入りください」
勝は疑問に思いながらも、促されるままにその部屋に入った。ガタン、と背後から扉の閉まる音が聞こえた。後ろを振り向くと女性もいた。
勝は恐る恐る奥へ進んだ。すると、そこには近未来的で薄暗い謎の空間が広がっていた。
「あ、あの……ここは?」
「ここはこの図書館の歴史を司る場所……私は、貴方をずっとお待ちしておりました」
勝は女性が何を言ってるのか分からなかった。
「あの、どういうことです…?」
「この図書館は不可思議だということです。貴方にしかたどり着けないのですから」
勝はますます意味が分からなかった。だが、この機会を逃すまいと、勝は図書館についてのレポートを作成した。
休み明け、勝はレポートを教師に提出した。しかし放課後、その教師に呼び出しをくらった。
「先生、何でしょう?」
「何でしょう、じゃないよ。何だこのレポートは」
「いや、近くにある図書館についてですけど……」
「図書館?そんなのこの近くにないだろ」
その時、勝は全てを悟った。
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