図書館

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 女性が扉を開ける。 「ここってどうやって作られたんですか?」  僕は彼女にそう聞いた。 「そうですね…大体は知っています」 「そうなんですね」 「ええ。お話は後からします」  僕は「うん…」と呟いた。ちなみに心当たりはない。  話していたからか、その空間にはあっという間に着いた。 「じゃあ早速、話してください。ここの歴史を」 「承知しました。しかし、全て話すと長くなるので、ざっくりと話します」 「ずばり、この図書館は貴方自身の歴史とリンクしているんです」 「僕自身の歴史?」 「はい。そうですね……少し話は逸れますが、私の話でもしましょう。そうすれば、言葉の意味は分かるはずです」  僕は黙り、彼女の言葉を待った。 「私は数年前、ここで働きはじめました。といっても、貴方の心象世界であるここには、貴方しか来れません。つまり、貴方の他に人は来ません。そして、貴方も今まで一度も来ませんでした。私は、とても寂しかったです……しかし、楽しいこともありました」 「楽しいこと、って?」 「本の整理ですよ」 「本の整理?」 「ええ、これを見てください」  彼女は僕にモニターを見せてきた。図書館に寄贈されている本のリストだ。それらを僕は見たことがあった。 「これ……僕が今まで読んできたやつか」 「そう。貴方が読んだ本たちは、必ずここへ寄贈されるんです。私は本を読むこと、整理することが好きだったので、ずっと独りでそれをしてました」 「よく続きましたね」 「はい、本当に。自分でも驚きです」  彼女はきっと、僕と同じ本を読んだり、整理することが一番の娯楽だと感じる存在として生まれたのだ。彼女は生まれる前から、どのような存在で、どのようなことが好きで、どのようなことを楽しめて、どのようなことを苦手とするのか、全てが決められていたのだろう。彼女の外見が僕の初恋相手に似たのも、きっとそのせいだ。 「あっ、そろそろ帰らないと」 「では、受付までご案内します」  別れ際、彼女は「あの」と僕を引き止めた。 「私は……貴方の心象世界の住人として生まれてきて幸せです。貴方と共に生きていきたい。そう思います」 「僕もこんな世界を持ったんです。あなたを放っておくわけがありません。あなたは異世界の存在ですから、その……お、お付き合いはできないけど、相棒としてならやっていけると思います」 「ふふふ。私も同じようなことを言おうとしてました」 「そ、そうなんですね、あはは…」  和やかな空気になったが、彼女は話を戻した。 「ここは、貴方が『本に関わる何か』を行動に起こすと更新されます。貴方が新しい本を読めばここに寄贈される。失くせばここからも消える。そのようなシステムが、ここではとられているのです」 「何だか面白いですね」 「毎日来てもいいんですよ?貴方しか来れないんですし、私は暇人ですし」 「はい、できる限り毎日来るようにします。僕もあなたに毎日会いたいので」 「はい。お待ちしています」  僕はその日、かなりの長時間異世界に居座り、彼女に手を振って現実へ帰った。 「……さて、久しぶりにいっぱい本読もーっと」
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