2.smiling

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2.smiling

着信音で目が覚めた。覚めたと言っても、目は空いていない。脳の真ん中のあたりが音に驚き、万人が心地よいと感じるのであろうこの音とリズムを、消しなさいと指令する。 右手の指が、触り慣れたスマートフォンを捕まえた。見ずに打ったパスコードに一度、そして二度弾かれ、ようやく着信音が消える。と同時に、聴き慣れた「おはよう」声が、機械を通して少し鼻声のように聞こえてきた。 「おはよう」 口に唾液がないのは自覚しつつも、枕元に置いていた飲みかけのカップに手を伸ばすこともできない。それくらい、脳以外の全ての機能がまだ夢を見ていた。 「大丈夫?」 笑うのを堪えた微笑が、目に見えるようだった。楽んでいるものの、どこか伺っている彼女の顔。どうして彼女は、純粋に笑わないのだろうか。付き合って2ヶ月になる俺を、まだ信用しきれていないのだろうか。 言葉使いや仕草が丁寧で、どこかよそよそしい彼女。 手の力が抜け、スマートフォンの画面に触れるのが分かった。目の奥、脳の奥から眠気の重力が襲ってくる。全てが暗く、無になった。 彼女が、いつか歩いた公園のベンチに座っていた。恥ずかしさを隠そうとした微笑がこちらを向き、細く長い指の手を振ってくる。 ゆっくり、ゆっくり。彼女のもとへ歩いた。
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