3.regreting

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3.regreting

蕾が落ちた。サーモンピンクの花を咲かせるはずだった、大きな蕾。ふっくらとしてきたからつい、触りたくなってしまった。触った瞬間、音を立てずに落ちた。私のようだった。 大好きだった彼が、元彼になった。私が高校1生から、大学生いっぱいまで付き合っていたから、長いと思う。 なぜ別れたのかも、はっきり思い出せない。私が何かに怒って、彼が「じゃあ別れる?」って言って、私は「いいよ!」と怒鳴ってしまった。それ以来、会っていない。 それでも、SNSのTLには常にいた。私に関することは別れて以来、何も呟いたことはない。 そんな彼に、新しい彼女ができたと知ったのは、2ヶ月ほど前のことだった。LINEとSNSのアイコンが変わった。いかにも誰かにとってもらったという写真。場所も男同士では行きそうにない、可愛らしい雰囲気のある喫茶店かどこかだ。 そして、とうとう投稿に新しい彼女と思しき女性とのツーショットが現れた。顔こそスタンプで隠してあるが、服装も雰囲気も、彼女が素敵な人であることが伺える。水色のコートが似合う、ほっそりとした女性。細長い指に淡いピンクのネイルが、品が良い。 大好きな彼が幸せならそれでいい。そう思えるのは日中だけ。太陽が離れている時は常に群青闇が、私の胸に冷たく触れてくる。 私は蕾を摘んだ。柔らかくて、心地よくて、放せない。 カーテン越しの陽はやや高い位置から指していたが、まだ朝の匂いを残していた。
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