4.sleeping

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4.sleeping

中指の爪が、トレーナーにひっかかった。別に痛くはないが、不快だ。 爪の先が欠けていることには、昨日の朝には気づいていた。寝る前に切るなりすればよかったものの、そのまま放っておいてしまった自分が悪い。分かってはいるが、そういうことはなかなかできないものだ。 「よっこらしょ」 父が帰ってきた。さほど重くない段ボールには、「ちゃーはん」と書かれているのを、私は知っている。 中身は炒飯ではない。お店に置いておくには邪魔な、少しだけ残った焼酎の瓶や冷凍の枝豆か何かが入っているのだ。 「りかこ、起きてるか」 名前を呼ばれたが、返事をするつもりはない。起きているのがバレると、結婚はしないのか、この先仕事はどうするのかと、とやかく言われるからだ。 父は近所で居酒屋を営んでいる。学生の多いこの町で、それなりに繁盛しているようだ。だから夕方から朝までは、この家にいない。夜だけが、私の時間だ。 父は自分の居酒屋を継がせようとはいていない。それは、とても助かる。しかし、母が死亡してからというもの、私の将来に対して非常に神経質になった。 気持ちは分かる。自分が死んだ後、養ってくれる人も8年間仕事もしていない1人娘は、一体どうするのだろうか。それは心配になるだろう。私自身も心配である。 しかし、どうしても先のことが考えられない。やりたいことも、理想像も何もないのだ。強いて言えば、この状況のまま、時が止まって欲しい。毎日、同じ日付を延々と繰り返し、私は夕方から早朝まで部屋着という制服で、夜の魔物になりきる。それが理想。 中指の爪が、再び引っかかった。耳をすませば電車の音、出勤通学に急ぐ人々のざわめき、花や鳥達の息遣いが聞こえてくる。 私はそっと布団に潜った。これからまた、長い夢を見る。
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