1. morning call

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1. morning call

「ちゃーはん」と書いてある段ボールを抱えたおじいさんとすれ違った。 黒いトレンチコートに身を包んだ男性が私を追い越した。 そして、電話が切れた。いや、切られたと言った方が正しいのかもしれない。 「8時にモニコして」と言われたから電話をかけた。10コールくらいでやっと出た彼に「おはよう」と言って、がさがさの「おはよう」が返ってきて、「大丈夫?」と聞いて——切られた。 きっと彼は二度寝した。再び、夢の中だろう。 フリーのライターの彼は、夜型だ。だから無理をする必要はないのに、彼は「朝から仕事をするって決めたんだ」「だから8時くらいにモニコして」と言った。だから私は家を出てすぐの、少し8時を過ぎたくらいに電話をかけた。正直、一度でも起きることが出来たことに少し驚いている。しかし、せっかくモニコしたのだから、機嫌良く起きてほしい。なんなら二度寝してしまってもいい。機嫌良くいて欲しい——。 昨日の彼を愛す私と、もう一度電話をかけて嫌われたくない私が、同じ質量で存在していた。どちらも少し重くて、譲らない。 遠くで女子高生の群れが一斉に笑った。少年らが、ランドセルを揺らして前を過ぎた。 私はひとり、いつも通り駅へとパンプスを鳴らす。 綺麗過ぎない朝空は、程よく澄んでいた。 私は、不幸な女だ。
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