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2.
柴本光義は便利屋だ。
法に違反しない範囲で、人々の頼みごとを有償で解決してゆく。
今年の2月に亡くなったキヨ子ばあちゃんこと松田キヨ子は、柴本がこの仕事を始めるきっかけになった人物だそうだ。わたしは面識がないけれど、彼女を知る人たちの語り口からは、その人柄の良さが伺い知れた。
「あかねいもってジャガイモの一種をキヨ子さんは育てていたの。皮がうっすらピンク色で、味は良いけど粒は小さくて、殻付きの落花生と同じくらいだって。収穫が面倒くさいからキヨ子さん以外の人は作るのを止めちゃったみたい」
資料館あたりでコピーを取って来たのだろう。達筆過ぎて何が書いてあるのか読めない紙を広げながら――『いも』はかろうじて読めた――続ける。
「昔、この辺りで栽培されていた、この品種を復活させて、地域興しに使えないか考えているんだ」
「そういえば、芋を素揚げして味噌味のそぼろ餡を絡めたやつ、何度もご馳走になったっけ。皮がピンク色で、ばあちゃんも珍しい品種だって自慢してた。なんつーか、香ばしくて旨かったな」
「それ、最後に作ってもらったのはいつ?」
懐かしむように思い出を語る柴本に、小鳥遊は鋭い視線を向ける。
「去年の秋かな。また食いたいって言ったらばあちゃん笑ってたっけ。亡くなる2、3日くらい前だったか、寒い日だったのに畑に出ていて、何しているのか聞いたら芋を植えてるんだって――」
ガタッと音を立てて小鳥遊は椅子から立ち上がり、足元のカバンを乱雑に引っかき回して地図を取り出した。ところどころに打ってあるマーカーは、松田キヨ子の畑を示しているらしい。
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