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「どこの畑か覚えてる!?」
「んー、そこまでは覚えてねぇや。おれが知らねぇうちに植えたトコだってある筈だしよ」
赤茶の毛並みに覆われた三角耳のうしろをがりがり掻きながら、柴本は言葉を返す。巻き尾が所在なさげに揺れる。
「つーか、全部の植え付けは終わっていなかった筈だぜ。種芋は残ってねぇのか?」
沈鬱な表情で、小鳥遊は首を横に振る。
「離れて暮らしていた娘さんに聞いたんだけどね。お葬儀のすぐあとに業者を呼んで、要らないものは全部捨てちゃったみたい」
「そっか。なら、畑を片っ端から捜すしかねぇな」
乱高下する感情をあらわにする小鳥遊とは対照的に、柴本はふたたび大あくびをしながら言葉を返す。
「お願い! もう今は柴本くんだけが頼りなの! もちろんタダとは言わない。払う算段は付いてるから」
提示された金額は決して悪くはない。むしろ昨今の経営は順調とは言い難く、財布のひもが固いNAこーとぴあにしてはかなり良い部類になるだろう。ただ、どうにも引っかかる。千人余りが在籍し、獣人の職員だって大勢いる筈なのに柴本だけが頼りとは?
そこは彼も思うところがあったようだ。だが、ほんの一呼吸だけ間を置いて
「分かった、受けるよ」
「ありがとう。予定は追って知らせるから。土地はもうすぐ住宅地として売りに出されてしまうから、ちょっと急がなきゃならないけど」
小鳥遊は心底から安堵したような笑みと溜息を洩らした。
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