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 柴本が小鳥遊と一緒に松田キヨ子の忘れ形見を捜し始めたのは、それから数日経ってのことだった。    松田キヨ子は小さな畑を5つほど所有していたが、どれも似たような状態だった。  主がいなくなって9ヶ月あまり。耕されないまま風雨に(さら)され、硬く締まった畑の土。その上を、枯草とまだ青い草とが伸び放題になり、覆い尽くしていた。    そんな中を獣人――犬狼族(けんろうぞく)の鋭い嗅覚を頼りに、じゃがいもが埋まっていそうな場所を注意深く掘り返してゆく。気の遠くなりそうな作業を早朝から繰り返していった。 「あー、ここもダメだな」  1()(註:約1a)に満たない小さな畑を隅々まで掘り返した柴本は、座り込みながら首元の毛並みを伝う汗をタオルで拭った。その横で小鳥遊は地図に鉛筆で×マークを付けた。これで地図上の×マークは3つ、残りは2つだ。 「ま、なるようになるさ。次行こうぜ、次」 「そうだね」  消沈した匂いを漂わせる小鳥遊を見上げ――身長162センチの柴本より彼女の方が背は高い――、自分の車に乗るよう促した。  朝、家まで迎えに来た小鳥遊は、NAの社用車ではなく自家用車に乗って来た。それならと柴本は平良野の車を家の駐車場に停めさせ、自分が所有する自家用兼仕事用の軽バンに相乗りで畑を回るようにしたのだ。  横の道に停めた軽バンに荷物をしまい始めたとき、NAこーとぴあのロゴが入った軽トラックがこちらへと向かってくるのが見えた。アスファルトで舗装されているとはいえ、車1台がかろうじて通れる程度の農道なのに運転は荒い。   「なんだ?」  柴本の耳は、小鳥遊が小さく息を呑むのを捉えた。漂う匂いは恐怖あるいは罪悪感。教師から叱られるのを待つ子供が漂わせる匂いみたいだったと後に柴本は言っている。  軽トラックは柴本の車にぶつかるギリギリで停まった。出て来たのは柴本と同じ犬狼族の獣人だが、痩せこけて背が高い。その男は運転席のドアを叩きつけるように乱暴に閉め、ふたりに向かって大股で歩いてきた。
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