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「お前ら、ここで何やってんだ?」  NAこーとぴあのユニフォームを着た男性は、同じデザインの服を着ている小鳥遊を睨みつけた。 「あー、すみませんね。今、ちょっと仕事中でして」 「部外者は黙ってろ。小鳥遊、急に休みなんか取ったかと思えば何やってる? あ?」  男は割って入った柴本を無視し、退かなければ突き飛ばすかのような動きで隣にいる小鳥遊へと近づいた。 「あかねいもがキヨ子さんの畑に残っている筈なんです。それを見つけて増やせば――」 「お前が言ってる伝統野菜の復活とやらは却下されただろ? なぁおい」  先輩職員とおぼしき犬狼族の男は言葉を遮り、吐き捨てるように言った。 「何でも面白半分でやりやがって! だから女に外回りやらせるの反対なんだよ。力仕事もロクに出来ねぇクセによ! どうせ結婚するまでの腰掛けなんだろ? おとなしく事務や窓口だけやってりゃ良いんだよ!」 「聞こえなかったかな? おれの仕事の邪魔しないでいただけませんかね」 「あぁ!? うっせぇ! すっこんでろチビ!!」  早口の罵倒など意に介さず、柴本は頭ひとつぶん高い灰色の毛並みを見上げた。そして、両手の指をゆるゆると握っては開いてを繰り返して見せた。肉体労働で鍛えられた太短い指と分厚い手のひら――暴力への転用など容易いのだと言外の脅し。   「やるってのなら仕方ないですが。農互さんの看板にも、傷が付きますよ?」  少し高い位置にある目、その琥珀色の光彩と中心にある瞳孔を凝視しながら口調は穏やかに、けれども一字一句を噛み締めるように発した。  便利屋を始めるより前、10年以上にわたって陸上防衛隊に籍を置いていた柴本には、生半可な脅しは通じない。睨み合いは暫し続き 「ちっ!」  引いたのはNAの作業服を着た男だった。 「覚えておけ! こんな馬鹿げた話にNA(ウチ)はビタ一文出さねぇからな!」  捨て台詞とともに車に乗り込んだ男は、ギャリギャリと乱暴な運転で狭い農道を走り去っていった。   「あーあ。弱い(やつ)ほどギャンギャン吠えらぁ。つーか、あいつ決裁権限あんの?」  下品なハンドサインでお見送りしたいと思った柴本だったが、小鳥遊に火の粉が及ぶことを考えて自重したと後に語っている。
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