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4.
「ごめん」
「何で小鳥遊さんが謝るんだよ? どう考えたって悪いのあいつじゃん」
自販機から取り出した紅茶のペットボトルを平良野に渡しながら、柴本は言葉を返した。硬貨を入れて、自分用にカフェオレのボタン。
他の車が通る邪魔にならないよう、すぐ近くの公会堂の駐車場まで場所を移し、少し休むことにした。
時刻は13時を少し回ったところである。朝からの重労働で疲れと空腹が来た頃だった。
「そうじゃなくて。NAの仕事だなんて言って柴本くんに嘘ついて、ごめん」
「まぁ、話聞いたときから何となく想像ついてたし。こんなことじゃないかって」
「えっ?」
それならどうして受けたのかと訝しむ視線に構わず、手にした飲み物を一口飲んでから言葉を続けた。
「さっきの嫌なヤツみたいのを見返してやりたかったんだろ。おれが小鳥遊さんだったら、あいつをぶん殴ってたよ。偉いよな、我慢して。
それにしてもいつの時代だよ?
『嫁に入るまでの腰掛けだから面白半分でやってる』とか、勝手に言ってさ。ふざけんなって話だ。
そりゃ力仕事とか危ない場所とか男の方が適正あるかもしれねぇけど。
そうそう、東岸警察署の今の刑事課長は女性なんだぜ」
「それなら知ってるよ。柳小夜子さんでしょ。柴本くんの高校時代の彼女さんだっけ」
今度は柴本が驚く番だった。口に含みかけたカフェオレを勢いよく噴き出し、盛大にむせながら首だけをぎぎっと90度曲げて小鳥遊を向いた。
「どこでその話を!?」
「警察の偉い人の娘さんなんでしょ? 柴本くんのお母さん、逆玉だって大喜びであっちこっちで話していたから有名だったよ」
「母ちゃんめ、また余計なことを。昔のことだよ。1年くらいで別れちまったし」
「へぇ、そうなんだ」
このとき、話の切り替え方を間違えたと柴本は心底悔いた様子で話してくれた。ついでに、小鳥遊が意外とあっさり追求を止めてくれたのは有り難かったとも。
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