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「とにかく、キヨ子ばあちゃんの名前が出た時点で、おれにとっても他人事じゃねぇよ。ばあちゃんがいなけりゃ、おれ、どうなってたか分からねぇし」  隣に座り、話に合わせて目まぐるしく表情を変える青年が、かつて陸上防衛隊で幹部候補の道を歩んでいたことは小鳥遊も人づての噂で聞いていた。上官に暴力を振るったことが原因で、職を追われたと言われていることも。    路頭に迷っていた柴本に声を掛け、あれこれ手伝いを頼む代わりに手間賃を渡していたのが松田キヨ子だった。その器用さ、仕事の確かさを見て、便利屋を開業するよう薦め、周囲の人々に口コミで宣伝したのもまた、彼女だった。   「あたしも、農互に入ってからずっと、キヨ子さんに気にかけて貰ってた。 色んな人から『女じゃ農業指導は務まらない』って言われてきたけど、その度に、まるで自分のことみたいに怒ってくれたの覚えてる」  声に少しずつ覇気が戻り、漂う感情の匂いに"喜"と"楽"が混じり始めたのを嗅ぎ取った柴本は、泥をポンポンと払い落としながら立ち上がった。 「そうと決まりゃ、さっさと行こうぜ。ばあちゃんの忘れ形見を復活させるんだ。その前にとりあえずメシか。腹減ったな。時間ねぇからコンビニで良いか」 「うん」  再び、車へと乗りこんだ。  コンビニで買ったパンやおにぎりを手早く食べたふたりは、残りの畑での捜索に取り掛かった。    目当ての芋は4つ目の畑で見つかった。そこは他よりも広く、すべて掘り返したときには16時を過ぎていた。  すでに陽は傾き、その日のうちに最後の1ヶ所を見に行くことは出来なかったけれど、それでも小さな芋を11個見つけることが出来た。  帰って来た柴本は、自慢げにわたしに語ってくれた。
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