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1.
「宝探し、やってみない?」
――何だって?
思いもよらぬ単語に、わたしと柴本は顔を見合わせた。
日が暮れるのが目に見えて早くなった11月下旬の夕方。
リビングのテーブルを挟んだ向かい、NAこーとぴあのロゴ入り作業服を来た人間種の女性が、自信に満ちた表情でわたしと柴本を見ている。
すらりと長い手足、往年のコークボトルを思わせる均整の取れた体型。機能性ばかりを重視した――有り体に言えばダサい作業服も、彼女、小鳥遊ゆきが纏えば想定外の魅力を発揮する。
同時に、この世界の不平等をまざまざと見せ付けられる。
ただ、恵まれた者には恵まれたなりの苦労があるようで、彼女は容姿について言及されることを快く思っていないと柴本から聞いている。これくらいにしておこう。
あとで聞いた話では、ふたりは幼い頃は家が近く、小、中学校と同じ学校に通っていて、何度も同じクラスになっていたそうだ。
ちなみに、NAこーとぴあは農業従事者の相互扶助を目的とした組織で、頭のアルファベットはNippon Agricultureの略だ。農業互助組合、略して農互と呼ぶ人も多い。河都市を東西に分かつ龍神川の東側の区域と、その周辺の幾つかの町村を管轄区域としている。
「なぁ、旧軍の隠し財産はテレビ局がでっち上げたガセってのは有名な話だぜ。じゃなくて大海賊のお宝か? それとも、里見家の埋蔵金? あー、いいなぁ。金銀財宝ガッポガッポで遊んで暮らしたいぜ」
わたしの隣で柴本は、体を反らして椅子の背にもたれかかりながら大あくびをする。椅子の背のスリットから突き出た尻尾は、やる気のない箒のようにゆったりと宙を掻いている。
幼なじみとは言え、客人の前では失礼が過ぎる行動に、しかし小鳥遊は気に留めた様子もなく
「残念、どれもハズレかな。お宝ってのは金銀財宝じゃなくて、伝統野菜。もう滅びたと思ってた最後の系統が、今年のはじめに亡くなった松田キヨ子さんの畑にあるらしいんだ。それを復活させたくて」
その名を耳にするや、つい今まであくびを垂れ流していた柴犬顔をキリッとさせ、テーブルに身を乗り出して目の前のNA職員に向き直る。
「詳しく訊かせてくれ」
「キヨ子さんのことなら、柴本くんは乗ってくれると思っていたんだ」
小鳥遊は少年のような中性的な面差しに、弾けるような笑みを浮かべた。
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