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「それじゃあ、7時15分になったので飲み会を始めたいと思いまあ~す! それでは、乾杯!」  カンパーイっ!  幹事役の男が乾杯の音頭を取ると、その場にいる全員が乾杯をした。皆、会社終わりに集まっているから、ほとんどスーツ姿だ。  久しぶりの合コン、割りと面倒臭いかも。宮下明は思った。今日は真冬の寒さが骨身に応えるクリスマスの金曜日だ。そんな日でも冷たいカシスオレンジは美味しい。同僚の瀬戸将基に誘われて来たものの、どこかガツガツした雰囲気に煩わしさを感じてしまう。大学時代の友人達が居酒屋チェーン店で合コンを行うと言うから気楽に来たのだが、乾杯が始まると男女揃って必死に異性に話し掛けていく。男のほうは露骨で、豊満でショートヘアの可愛い系の女性に男3人が積極的に話し掛けている。その中には将基も混じってた。ホンマにやれやれやわ。  取り敢えず、明は何人かの女性に話し掛けていく。それなりに会話は盛り上がるけれど、女の子達はどこか気持ちが別のところにあるような感じがした。まあ、女性も20代の後半ともなると将来のパートナー探しに必死にはなるだろう。子供が欲しい人もいる筈だ。明の知り合いにもそういう女性が何人かいた。  3人目の女性と一通り会話をすると1人、同性相手に話し掛けている女性を見つけた。しかも、どこか落ち着きがなく目線がキョロキョロと動いてる。黒髪が綺麗な人だ。  彼女のほうが気が合うかも。 「すみません」  明は話し掛けた。 「僕、宮下明って言います。お名前訊いても大丈夫ですか?」  ちょっとストレートな声の掛け方をしてしまったが、気にしなかった。明は彼女に話し掛けるまでの間に、カシスオレンジを3杯も飲んでいる。 「あっ、雨内眞衣です。どうもです」  そう言うと、雨内はこくりと小さく会釈をした。 「こういう飲み会はあまり馴染みがないですか?」  彼女に訊ねると、 「そうですねえ。今までは女子会とか女の子同士の飲み会しか行ったことがなかったんで。ちょっと、緊張してますねえ」  雨内が答える。 「僕自身はこういう飲み会は何度か経験があるんですけど、2年ぶりなんですよね。正直、滅茶苦茶ビビってるんですよ」
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