22人が本棚に入れています
本棚に追加
/18ページ
1
森の雪原の中に鹿を見かけた。
この時期の鹿は飢えて痩せてうまくない。
でも、飢えているのはこちらも同じだ。
私はそっと近づく。
鹿は腹まで雪にはまって動けなくなっていた。
食いしん坊の鹿め。
黒いつやつやの実のような瞳がこちらを見た。
鹿は感情を表さない。
ルーとは違って。
あごの辺りまで雪片がまばらに張りついている。
私は後ろからそっと動けない鹿に近づき、
細い首を抱くように抱えて、右側へ捻じ曲げた。
私の聞き腕は左、だから右側なのだ。
最初のコメントを投稿しよう!