走り出す！

３

私はこの山深い小屋で育った。
生まれたのはNYっていう大きな街だけど、小さな頃にパパとこの場所に来た。
でも、私が何も知らない子だとは思わないでほしい。
パパはタブレットでいろいろなものを、世界中のことを私に見せてくれたし教えてくれた。
ヨーロッパだって、ロシアだって、アフリカだって、中国だって、日本だって、インドだって、みんな知ってるよ。

言葉だっていろいろ話せるし、計算もできる。

パパは、NYでギャンブルにはまり込んでここに逃げてきたんだって言っていた。
でも、本当かな。
「ラスベガス」のことを聞いてもパパはよく知らないみたいだった。

私が５歳の頃、獲ってきたうさぎの子を私があやしていたら、一度だけパパが訊いた。
「ともだちが欲しいかい？」
「ともだち」って、はじめて聞いたけど、何となくわかった。でも私は首を振った。
「パパがいれば何もいらない」

腰を折って私をのぞき込んでいたパパは、黙って微笑んでくれた。