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 暴風と雪。  家はがたがたと揺れる。いくらストーブに薪をくべても少し離れると芯から冷える。パパは眠っている。だから私が起きていて、火を絶やさないようにしなければならない。  起きているために本を開く。今読んでいるのは聞いたこともないような数式の並んだ本。でも数式だけではない。何か絵が入っていて、挿絵というには素っ気なく、小さな文字で説明が入っている。Chemistryの文字が表紙にある。裏表紙を見ると、アメリカのハイスクールで使っているものらしい。  よくはわからないが、心が躍る。  眠っているパパをちらりと伺う。パパは最近、あまり起き上がることもしなくなった。パパは軽い病だというけれど、本当だろうか。ずいぶんと痩せたような気がする。顔色も良くない。  幼い頃のことを思い出す。  パパは大きくて、私を抱っこしたり負ぶったり、でも肩車がいちばん好きだった。  パパの作ってくれたお人形。パパの作ってくれた積み木。何より、パパの作ってくれたご飯。  私が少し大きくなったとき、私を連れて森の深くまで行った。それまでは、川の向こうの分かれ石より向こうには行ってはいけないと言われていた。そこには怖いものたちが棲んでいる。でも私はパパがその怖いものたちの棲む森から、鹿や鳥を持って帰るのを知っていた。怖いものって何だろう?  
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