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その日の放課後、バイトの後に電話があり、大成に呼ばれてアパートに行く。
「…………取り敢えず、お祝いだけさせて」
インターフォンを押して出てきたのは、どこか不貞腐れた大成の顔だった。
なんとも言えない感情で、取り敢えず、玄関を上がり中に入ると、唐揚げだとか焼鳥だとかが皿に盛られていて、机の真ん中に、ホールケーキがあった。……我が家でさえ、スーパーの二切れ入って三百円くらいのケーキだったのに。
「…………」
何も言えないでいると、プレゼントを持った大成がすぐ横までやって来た。
「んで、これがプレゼント」
「……………」
渡されるままに受け取る。
小さくラッピングされたその袋は、軽いのに、確かな存在感を放っていた。
「あ、」
やっと、口から音が漏れた。
けれど、なんと紡いでもいいかわからない。
俺の顔を見て、大成が笑った。「なんて顔をしてんだよ!」と、俺が眉間に皺を寄せ、難しい顔をしていることを指摘した。
「お前ってほんと、甘えるのとか、下手よな」
「………うっせ、」
「愛おしいわ。早く、俺のものになってよ」
ケラケラと笑いながら、いつもの軽口を叩く。
「………ならねぇよ、」
そこでやっと、まるで金縛りが解かれたかのように言葉が出た。すっかり慣れたやり取り。慣れた言葉だと思った。
愛おしい、とか言うくせに、大成は今日もきちんと、俺には指一本も触れない。きちんと『友人』という距離感で、俺をもてなすための準備をして、席に座るように促す。
(………大成のものにはならねぇけど……、)
「んじゃ、改めて! 芳樹、二十歳、おめでっとー!」
何処からともなくクラッカーが取り出され、パンッと大きな音を立てた。料理の上だなんてお構い無しで、クラッカーの中身のシャワーを、無事に唐揚げや焼鳥、ケーキなどが身に受ける。
俺は、ーーーーくすぐったくて、笑った。
「ありがと」
おかしいな、口にしたのはピーチティーなのに。
胸の辺りがほかほかと温かくなるのを、流石に、気が付かないことなんて出来なかった。
そんな、新学期。
春の始めの話だ。
ー2へ続くー
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