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「いいじゃん!」
「うん。楽しそう」
食堂にて。
二人に旅行の話をすれば、二人は乗り気で頷いてくれた。残念だったな、大成。二人で旅行プランは、マジで消えたわ。
俺はますます現実味を帯びたその話に、わくわくとし始める。
「行きたいとことか、ある?」
旅行と言えばと行ったことの無い都会を勝手に想像していたが、俺のそういった知識が周りよりは劣ることを自覚していた。行き先は二人の意見を参考にしたい。
「オレはアレだな。やっぱ、東京かなー!」
「いいね。おれも。基本的に地元と此処しか知らないから、東京とか行ってみたいかも」
「おお。じゃ、東京かな」
「海外と言う手もあるぞ、諸君」
それまで黙って、食堂の蕎麦を啜っていた大成が割って入る。
「いやいや、初回からハードル高ぇわ!」と翔が笑った。
確かに。夏休みまでもう一ヶ月と数週間。それまでにパスポートとか取るのも大変だろうし……というかそもそも、ハードルが高過ぎるな。なんせこちらは、初めての旅行だからな!
大成も別に、本当に行きたいと思っているわけでは無く、ただ言ってみただけのようだ。どころか、「梨センに会ったりしたら、芳樹の貞操も危ないかもだし。やっぱ海外は無しだな」などと適当なことを言い出した。
「なんだよ、それ。ねぇーわっ!」
大成は未だに梨木先輩の事を「梨セン」と呼んでいた。それから、梨木先輩は結局、海外から帰国しなかった。休学したと言う噂も聞いたことがある。そうではなく、退学したと言う噂も聞いた。本当に、自由だ…。
大成の冗談は俺のツッコミによって聞き流され、それぞれ、注文した飯を口に運びながらも「いつ頃がいいかな」とか「どこら行きたい?」とか、口々に話した。
「大成さん、旅行に行くんですか?」
その時。
聞いたことが無い、可愛らしい声がした。
皆が慌ててその声の主に視線をやれば、大成だけがのんびりと「お、光希じゃん」とそいつに声をかける。……知り合いらしい。
まだ声変わりしてないのか?と思うくらい、決して低くは無い声のその男子は、大成に親しげに片手を挙げられ、はにかむようにして笑った。
「こんなところで出会うなんて、運命みたいですねっ!」
……………ん?
「ばっか、構内じゃん。運命も何もねぇーわ!」
ケラケラと笑う大成。
それを見つめる、ミツキクンの、熱いまなざし………。
(………………んん…………?)
ふと視線を感じれば、秋夜と翔が恐る恐るこちらを窺っていた。いや、何、その顔。なんでこっちみるの?
(別に、俺と大成は付き合ってるとかじゃねぇし……!)
声には出さなかったものの、俺の気持ちを表情で読み取ったらしい二人は、何故か深く、頷いた。
いやいや、何それッ?!
「心中お察しする」みたいな空気を感じ取って、イライラとするままに、残りの飯を掻き込んだ。
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