2.夏

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「誰、さっきの」 「さっき?」  芳樹が飲み物を買いに生協へと行き、秋夜は叶ちゃんの姿を見るなり、「先に講義室行ってて」と小走りにその後を追って行ってしまった。  二人きりになったので、ついでのように切り出した。  大成はなんの事だか思い当たらないらしく、ひたすらに首を傾げていた。気持ちイラッとして、「あの、ミツキクン」と指摘してやると、「ああ!」と合点したように頷いた。 「上の名前はしんねぇーけど。光希クン。新入生。同じアパートの、隣に越して来てたんだよ。挨拶くらいしてたけど、この前、家の鍵落としたらしくて困ってたからさ、一緒に探してやったら、懐かれたみたいでなぁー!」 「…………、ふーん?」  隣なんだ?とか、好かれてる自覚あるんだ?とか、なんだかもやもやとしたが、俺がもやもやするのもおかしいだろ?!と、なんとも言えない気持ちになる。 「何? 妬いた?」  顔に出ていたらしい。大成が、ケラケラと笑う。 「………んなわけ、ねぇだろ」  そう。  んなわけ、ねー………。  しかしこの男、なかなか掻き乱しにやってくる。  バイトが終わった後、いつものように気まぐれに大成のアパートへ向かった。行ったり行かなかったり、本当に気分に任せるので、最近では事前の連絡も省いていた。大成もそれを歓迎してくれているのか、最近ではアパートの鍵をかけなくなった。   「たいせー、」  まるで猫だよなぁ、といつか苦笑していた大成の事を思い出しながら、ガチャリ、と玄関の扉を開けると、玄関に、見慣れない靴があった。 「………」  誰の?と、一瞬考えてしまった。大成のものにしては小さいし、新しく買ったと言う程綺麗と言う感じでもない。  先客がいるなら帰るべきか?と、思っていると、部屋の方から「芳樹?」と大成の声がした。続いて直ぐに、大成が顔を出す。 「おー! お疲れ! ちょうど良かった」 「………誰か来てんじゃねぇの?」 「そーそー!」  玄関まで大股にやって来た大成にぐいと手首を引かれ、結局中へ入る。部屋に通され、目を見張った。 「光希がさー、東京のオススメポイント教えてくれてんのよ!」 「あ、芳樹先輩。お疲れ様でーす」  俺の姿を見て、光希クンがぺこっと気持ち程度に頭を下げる。  自己紹介をした覚えは無い。と、すると、大成が俺の事を何か話してる?……とゆうか、俺、帰った方がいい?邪魔じゃない?邪魔だよね?光希くん、心なしか刺すような視線でこっち見てるし。  立ち尽くして考えていると、「どうぞ、座って下さい」と、何故か光希くんが座ることを進めてきた。 (…………んん………?)  なんか、イラッとしてしまった。いや、お前んちじゃねぇから。俺の方が、大成ん家お邪魔歴長いから!因みにそこ、いつもの俺の席なんだけどねッ!  光希くんは、所謂、『ワンコ系』の顔立ちになって、俺を見つめている。何を読み取ろうとしているのか。何を隠そうとしているのか。演技なのか、素直なのか。 「冷たいの? 温かいの?」  台所から大成の呑気な声が聞こえる。 「ホット」と返せば、「とても親しいみたいですね、大成さんと」と声を潜めて、光希くんが言った。  やっぱり、観察するような目をしている。いや、メラメラと、対抗心に燃えている。ような…。  待って。なんでそんなに、敵意剥き出しなの?もしかして、ライバル認定されてる? 「まっ、大成さんは誰にでも優しいですけどね」 「………まぁ、俺は中でも特別かな? ああ、ミツキクンよりは付き合い長いからって意味でねー」  ピッシャーン、と。雷が落ちたような気持ちになった。なんだか面白くなくて、笑って見せた。  ぐっと唇を噛んだ光希くんに、ハッと我に返り、嫌な風に言っちゃったな、と反省した。 「はい、ホット」  いいタイミングで大成がマグカップを持って来る。そのまま、俺の隣の席へと腰掛けた。 (………大成もさぁ……。今、[[rb:俺>おとこ]]のことが好きなくせに、簡単に別のオトコを家に上げるなよ……)  大成に責任転嫁してその横顔を睨めば、気が付いた大成は「何? そんなに見詰められると、照れちゃうわ」と頬を抑えて身体をくねらせた。 「きしょ、」 「きしょく無いですよッ!」  バンッと机を叩いて、光希くんが立ち上がった。  流石に、驚いた。ぎょっとして、その姿を凝視してしまう。光希くんは憤りで顔を真っ赤っかにしていた。  興奮したように、声を張り上げる。 「芳樹先輩っ! ぼくっ、貴方には絶対に負けませんからねッ……!」  ……………あー…………。  訊いていい?  大成ってなんで、こういうめんどそーな奴らに、モテるの?
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