10人が本棚に入れています
本棚に追加
3.夏 その2
3.
試験が全科目無事に終了し、晴れて、明日より長い夏休みに入る。
件の旅行は、明日からを予定していた。
「なぁ、悪いんだけど……」
試験後の打ち上げと表し、俺のバイト先でもあるカラオケボックスで集まると、大成があんまり悪びれた様子もなく切り出した。
「俺、二日目から合流するから。先行っててくれねぇ?」
「はぁっ?」
突然のことに、翔と秋夜は目を丸めていただけだった。しかし俺から発せられていただろう、不穏なオーラに、意外にも秋夜が反応した。
「………どうかしたの?」
ゆっくりとした調子で、理由を問う。
「光希が」と、大成は切り出した。「熱出したらしくてさ。頼る人がいないらしいんだよね」
「………」
皆、黙った。
なんと言っていいのか決めかねているようだった。微妙な空気が漂う。暗く調節した照明の明かりが悪い意味で、より一層それを助けてしまう。画面から聞こえる明るい声のCMだけが、異質だった。無駄に煩い。
「………いいよ。別に」
誰かが何か言わないといけない空気の中で、やっぱり俺が口を開いた。
「気が済むまで、看病しろよ」
お前の優しさって、誰にでも向くんだな。
そんなことが、俺の心をイライラとさせた。なんだそれ、とも思ったし。このタイミングでそんなことを言い出した勇気も流石だと、変に感心もしてしまった。
「………悪い。明後日の昼の予定で合流するから……」
流石に俺の苛立ちを感じ取り、悪いと思ったらしい。
大成は珍しく、眉毛をハの字に下げた。
最初のコメントを投稿しよう!