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いつの間にか皆して眠ってしまっていた。
新幹線のアナウンスが「東京」と言ったのを聞いて、慌てて飛び降りた。
空調のお陰ですっかり忘れていた夏の暑さを一瞬にして感じる。纏まりつくような蒸し暑さは、確かに地元とは違いを感じた。
東京一日目は、東京タワーへ行くことになっている。
スカイツリーばかり耳にするようになったが、初めて行く東京は、やっぱり東京タワーからだろう!と盛り上がってのスケジュールだった。
よく聞く、田舎から出てきた奴は空を見上げるから分かりやすい、と言う皮肉なんてすっかり忘れて、俺達は東京駅の広さと綺麗さと、それから人混みにまでも感動し、出口までお約束の通りに迷い、人混みを横断できずに戸惑い、やっと外観の東京駅を拝んで、「天気予報で見たやつ!」「実在するんだ!」と騒ぎ、オチのお約束に、高いビルに圧倒されて空を見上げた。
「空、せっま!」
「ビル高ーっ!」
「!………」
秋夜も言葉こそ発さないものの、感動するところがあるようだった。何と無く、いつもよりもずっと目が輝いているように思う。テンションが上がっている感じ。
別に高層ビルの背の高さや空の狭さは、ゴッホやピカソみたいな感動とは並ばないわけで。(別に、絵画を見ても感動しないが)。でも、やっぱりこの圧巻を言葉で表現するならば、やっぱり『感動』だった。
此処に大成が居たらーーー……なんて、思ってしまう。
尻ポケットの中に手を突っ込んで、大成が誕生日プレゼントにくれたマネークリップに触れる。
『いつも身に付けるものがいいと思って』
大成が言った言葉は、いつぞや奴の妹から聞いた言葉だった。つい、腕時計をチラリと確認して、苦笑する。
『呪い?』ーーーと、訊く。
『そうかも』ーーーと、大成も笑った。
『いつでも、俺のことを考えちゃう、呪い』。
ーーーーお前ら、本当に、兄妹だなぁ。
明がくれた腕時計を確認する。
「………ん? 待て。東京タワーって東京駅で改札抜けるんだったっけ?」
「ん?」
「確かに…」
慌てて用意したマップを開く翔と、スマホで経路を検索する俺。秋夜はスマホで、狭い空と東京駅と、そんな俺達二人の姿を写真に撮っていた。
「丸の内南口で合ってる?! 何口から出たっけ? バスに乗るんだったわ! バス!」
「あ、地下鉄からも行ける!」
「地下鉄って、どうやって行くの?」
俺と翔があわあわと地図やスマホを見比べている中、どうやら秋夜は大成にラインで写真を送っていたらしい。
「大成にも。共有しておいた」
「あっはは! アイツどうかな、『俺もその場に居たかったなー』って思うタイプかな」
「さてね。看病で忙しくて、明日まで気が付かないんじゃね」
「また。拗ねんなって、芳樹」
ガラガラとキャリーバッグを引いて、バス停まで走った。
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