3.夏 その2

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『今日はほんと、ごめんな』    ホテルに再度戻り、部屋のシャワーを浴びた。  寝る前にベッドの上で、思い出したようにスマホを開くと、つい一時間前にメッセージが入っていた。大成からだ。  忘れていたわけではないが、目前の楽しさに自分の感情全てを乗せるようにして、時々敢えて、スマホを触らないようにした。大成への近況報告は逐一、秋夜がしてくれているみたいだったし。そうなると多分、俺の方にはメッセージなんて来ていないだろうから……とか、そんなことをチラチラと思ってしまった。悔しいけど、ほんと、まんまと呪いを受けている。 『別に』  簡単な返事を送る。……もう、寝ているだろうか?  あちらの夜はもうすっかり真っ暗で、道路に面した窓からでさえ、車が行き交うライトすら見せてはくれないだろうと思った。空には、無数の星が散りばめられていて、まるで見えてる風景が違うことだろう。  寝ているかというのは杞憂だったようで、直ぐに既読が付き、返信が来た。  ちらちらと、気にしていたのか?と思うと、なんだか愛お………否、可笑しくなった。 『明日は絶対、行くから』 「………」  開きっぱなしの画面。  送った瞬間に既読が付いたことを、大成はどう思っただろうか。 『あのワンコは? 元気になった?』 『光希? 七度代まで下がった』 『微熱あんじゃん』 『風邪薬も買ったし、ポカリやウィダーも買い揃えたし、ゼリーとかお粥とか置いてるから。もうへーき』  どんだけ甲斐甲斐しく世話してたんだ、と笑ってしまった。 『彼女かよ』  自然な気持ちで打てば、送信と同時に既読が付く。  世界は空で繋がっていると言うより、この画面の向こうで繋がっていると考えた方がリアルだった。漏れ無く、現代人だなぁと思う。画面越しに、大成の存在を感じる。  返信は先程までの軽快さが無くなり、既読が付いてからその返信を得るまでに、少しだけ待った。  ベッドの上で無駄に寝返りを打つ。 『ちげーよ。俺が好きなの、お前だもん』 「……………」  胸に。  何か、込み上げた。 「好き」だなんて。 (…………まだ口で言ったこと無い台詞じゃん……)  その込み上げたものを誤魔化す為の悪態も、なんだか……拗ねているような言葉になった。  いや、いやいやいや。………これじゃ、まるで………。   『はいはい。また明日』  返信を打つなり、画面を消した。寝よう。  早く、明日になればいい。 ………無意識に、そう思ってしまう。 (……いや。これは……明日のスカイツリーとか浅草とか、楽しみだからで。それから……大成が東京にどんな反応するかなって、それが、楽しみだからで……)  誰が聞いているわけでもないのに、頭の中で言い訳を探して。  冷房を十分に効かせた部屋で、布団を頭まで被って、寝た。
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