4.秋

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4.秋

4.秋  その男は、かなりの酒を一人で飲んでいた。  朧気になってきた目を気合いで開けているような、そんな感じだ。  真っ赤にした顔のまま、カウンター席で店主(マスター)に絡んでいた。 「それでさぁ、聞いてくれよぉ、そいつがさぁ~」 「はいはい」  店主は顔見知りだったのか、または、客からの絡み酒に慣れていたのか、グラスを拭きながら軽く流していた。  男はそんなことなどまるで気にせず、言葉を続ける。 「めっちゃくちゃ可愛い彼氏が居たんだよぉ~。はぁー? って感じ。分かる? オレの気持ち」  先程から、彼の口から出る登場人物が皆、男であることに。恐らく、その場に居た誰もが気が付いて、そわそわとしていたことだろう。  自分もその一人で、ふいと腰を浮かして、その男の横に座った。 「こんばんは。おにーさん」 「あん?」  目が合う。  いや、合っていると言えるのか。完全に深酒していたその男は、やはり朧気な目をして自分の方を向いた。 「……誰、お前」 「別にそんなのいいじゃない。……ねぇ、良かったら、この後、どう?」  男はにたりと笑った。  馬鹿にして!なんて或いは言われるかもしれないと思っていたが、その男は「何、お前、誘ってんの?」と熱っぽい声を出した。 「うん。そうだよ。おにーさん、自分が慰めてあげようか?」 「ははっ!」  男は笑った。 「お前、いくつよ? オニーサンがいくつだか知ってる? 酸いも甘いもよく知った大人のオニーサンよ? 僕チャンがオレのナニを慰めてくれるって?」 「………最高、」  自分の蕩けるように笑った顔を見て、その男は一瞬、酔いの冷めた顔した。 「……オニーサン。自分に、『酸いも甘いも』教えてよ?」  性欲。と言うものを、今まで経験したことの無い自分は、見よう見まねの口付けを男の唇に落とした。 「…………お前、叶に似た雰囲気させて、随分と、妖艶なのな」  カナエってその、久し振りに会ったら可愛い彼氏ができてたって言う、元カレの名前?  まぁ、関係無いか。  男の腕が、自分の赤と青の頭を掻き抱く。 「ちょ、ちょっと、お客さんっ! 此処では困るよっ…!」  店主の慌てた声が聞こえて、自分達はお金を置いて、夜の街へ出ていった。
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