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かかしは今日も、立っていた。
大きく広げた両手、太い竹の一本足。畑の真ん中、立っていた。
かかしの服は、どの季節でも、薄手の長袖。
かかしを作ったシゲおじさんが昔に着ていた、穴の空いた水色の。
灰色のズボンも、もちろんシゲおじさんのもの。十年前よりすっかり痩せちゃって、もう履けないんだってさ。かかしの腰で、伸び切ったゴムをひと縛り。
頭に乗せた麦わら帽子は、シゲおじさんといつも一緒に野良仕事をしている、カズコおばさんのもの。
山の上は陽が濃いからと言って、もう少しツバの大きいものを買った時に、今まで使っていたやつを、かかしに被せたんだ。
かかしの顔は、そんなカズコおばさんが、油性マジックで描いた。
キュッキュッ、キュッキュッと音がする度に、ほっぺの垂れ下がったカズコおばさんの優しい顔が、かかしからも見えるようになった。口元にある、黒い米粒みたいなプクッとしたホクロが、印象的だった。
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