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ねぐるしい春、まよなかにどこからか
懐かしいお香のにおいが、そうだ、あれは
十代のころだったと思う、ひとり暮らしで
当時流行っていたお香をまいばん焚いて、酒
煙草、
たまに、女
思えば、空っぽだった、そう
そのお香のにおいがただよってきたのだ
ひがしの窓に、半欠けの月
このごろ、夢をみる
裏切ってきた友の顔に、
すがるような夢をみるときがある。
きたない涙だ、自身に対する
きたない悲しみだ
むすめのあそぶ姿に、小学生のころの
じぶんを重ねて、ああ、そうか
わたしは死人か。
フラッシュバックする、蜘蛛のような
目にみえない糸を、何十にも
いや、何百
何千、何万
かこにみらいに、むすめにおやに
がんじがらめの糸は月の光で浮かびあがる
この溺死者め。
あたまの中で消えていく言葉は、きのう
むすめにくれてやった、青春の流光
今夜はわたしの葬式だ、ジリジリと
お香の燃える音
月が雲にかくれた、よるの鳥がないた
こんやは闇夜だ、幻影すら見えず
わたしはおぼれていく、深く
水のなか、記憶の砦
そうして、
きみはますます美しくなっていく。
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