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⚜マリアナと公務と⚜
皇国の第六皇女のマリアナは、一つ上の姉エルディナから押し付けられた公務を片付けていた。
普段であれば、九人いる皇女たちの中で6番目のマリアナにあまり公務はない。
公務は重要な書類がほとんどで、上の兄や姉たちが任されるためである。
時々、地方の事業主のリストを作ったり、外から入ってくる旅芸人たちの通行許可証を出したり、あまり重要ではない雑務を請け負うことの方が多かった。
しかし、第五皇女のエルディナにお茶会の招待状が来たとかで、普段はやらないような公務を押し付けられてしまった。
マリアナでもなんとかぎりぎり印を押せるような書類は片付けたが、第五皇女の公務は第四皇女と共同で行っているものが多い。
それらはマリアナの独断で片付けることはできないので、第四皇女に許可を貰わなければならなかった。
「ルルカ。確か、ララお姉様はこの時間温室にいるわよね」
マリアナは既に片付け終わった書類を机の端に除けながら、従者であるルルカにそう訪ねた。
ルルカは一度思い出すように宙に視線を彷徨わせてから、「はい」と答えた。
ルルカはマリアナが幼い頃からの専属従者で、同い年の気の許せる友人でもあった。
赤茶の髪の毛をいつもポニーテールに結わえていて、新緑のような瞳を髪色と同じ赤茶の睫毛がゆったりと縁どっている。
可愛らしい見た目でありながら、理知的な雰囲気を感じさせる風貌をしていた。
「いまからララーシュ様のところへ向かうのですか?」
「ええ、イラリア街はお姉さまたちの管轄だもの。私が勝手に決めていいことではないわ」
「ですが、この後にはベルラリン伯爵令嬢とのお茶会が控えております」
「ああ……」とマリアナは短く呟き眉間を抑えた。
なぜ今日に限ってやらなければならないことが多いのか。
しかし公務は絶対に今日中に終わらせなければならない。
「残念だけれど、ベルラリン様にはお断りの手紙を出しておいて。お詫びの品に今度レモンパイを持っていくから、と」
「承知しました」
ルルカは短く返事をすると、呪文を唱えた。
「ル・ミリア 草鳩よ、飛び立て」
途端、ルルカの人差し指にはまっていた銀の指輪が、緑色の光を発し輝き始めた。
光は長い帯のようになってからルルカの人差し指の上でくるくると蜷局を巻いていき、やがてそれは鳥のような形へと変わっていく。
ゆっくりと形を成した緑色に光り輝く伝書鳩は、一度ルルカの頭上を旋回してから、窓の外へ飛び立っていった。
「ありがとうルルカ。私は温室に行くわね」
「お一人でよろしいのですか」
「ここからちょっとしか歩かないわ、大丈夫よ」
マリアナは束になった資料を抱え、温室へ向かうために部屋を出た。
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