71人が本棚に入れています
本棚に追加
カペラ。プロキオン。アルデバラン。昴……
名前を呼んでも届かないが。
今夜も冬の夜空は、見つめていると潮雄に何かを語りかけて来る様で。
発光ダイオードみたいに瞬く小さな光。
その一つ一つが実は巨大な恒星が『ここに我あり』と赤く青く白く輝いたその姿であり。
しかもそれは何万光年も遠い場所の。
何万年も昔の姿。
それに比べれば潮雄の今日など、いや一生ですら宇宙の塵にもなり得ない。
何万年の時を、何万光年の距離を超えたその輝きは一方的に語りかけて来るだけ。
人が決めた一等星とか二等星とか、αとかβなど関係なく。
一方的に冷たく、いつかの輝きを見せているだけ。
それでも呟いてみたくなるのが小さき人間か。
ああ、今日も失敗したよ、などと。
ああ、生きるのが辛いです、などと。
きらきらのお星様には届きはしないのに。
人が決めた基準だと、満月はマイナス十三等星。
意味は分かるがロマンの欠片もないな、と見上げるその姿に。
煌めく星達の並ぶ形だけでなく、月のクレーターが作る影にも人の想像力は絵を描いた。
兎の餅つき、蟹、女性の顔……
そして神々しくもある月の魔力は。
潮雄の想像力に今夜もまた、あの声を聞かせる。
『……タスケテ……』
子供の様な。女性の様な。
大切な人の声の様な。
『……オネガイ、タスケテ……』
最初のコメントを投稿しよう!