月の願いを

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カペラ。プロキオン。アルデバラン。昴…… 名前を呼んでも届かないが。 今夜も冬の夜空は、見つめていると潮雄に何かを語りかけて来る様で。 発光ダイオードみたいに瞬く小さな光。 その一つ一つが実は巨大な恒星が『ここに我あり』と赤く青く白く輝いたその姿であり。 しかもそれは何万光年も遠い場所の。 何万年も昔の姿。 それに比べれば潮雄の今日など、いや一生ですら宇宙の塵にもなり得ない。 何万年の時を、何万光年の距離を超えたその輝きは一方的に語りかけて来るだけ。 人が決めた一等星とか二等星とか、αとかβなど関係なく。 一方的に冷たく、いつかの輝きを見せているだけ。 それでも呟いてみたくなるのが小さき人間か。 ああ、今日も失敗したよ、などと。 ああ、生きるのが辛いです、などと。 きらきらのお星様には届きはしないのに。 人が決めた基準だと、満月はマイナス十三等星。 意味は分かるがロマンの欠片もないな、と見上げるその姿に。 煌めく星達の並ぶ形だけでなく、月のクレーターが作る影にも人の想像力は絵を描いた。 兎の餅つき、蟹、女性の顔…… そして神々しくもある月の魔力は。 潮雄の想像力に今夜もまた、あの声を聞かせる。 『……タスケテ……』 子供の様な。女性の様な。 大切な人の声の様な。 『……オネガイ、タスケテ……』
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