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おおいぬ、オリオン、牡牛座、双子座……
昨日、ポケットサイズの小型望遠鏡を見つけて、安かったので買ってしまった。
ちゃんとした物は後で買おう。
それを持ち、白い息を纏って潮雄は街へ出た。
眠らない街並みを飾るサンタやトナカイ、雪を表したイルミネーション。クリスマスも間近。
天上の狩人や猛牛はこれを見たらどう思うのだろう。俺の勝ちだ、と鼻で笑うだろうか。
ヘッドライトが行き交う度にダウンジャケットを叩く、身を切る様な冷たい風にも隊列を崩す事無く超然と輝く星座たち。
十字に並ぶ星に白鳥を描いたのは分かるが、なぜWの形にエチオピア王妃カシオペアを連想したのだろう。
星の並び、と言えば冬の星座の代表格、オリオン座。
その中央に並ぶ三つ星は有名だが、更にその下に縦に並ぶ小三つ星はどうだ。
オリオン座を横にした形の兎座が真下にあるのは。
偶然とは思えない奇跡の偶然がそこにある。
『……タスケテ……』
満天の星空に瞳を心を吸い込まれ、人はやがて答えの無い問いかけを繰り返してみたくなったりもする。
銀河の果てであるとか。
人類とは、宇宙とはとか。
神様はいるのか、とか。
銀河の形は人の神経細胞や脳細胞に似ている、とも言う。
古代から人が星に惹かれるのは、実は体の中に銀河が広がっているからではないか。
人類が地球に今の文明を築き上げる事が出来たのは、まさに天文学的確率の奇跡だという。
ならば人の存在は、奇跡は起き得るという証明ではないか。
『……タスケテ……』
眠りに落ちる前の様な、幻想に憧れる無垢な少年の様な。
そんな答えの無い問いかけを繰り返し、潮雄は声のする方へ歩いて行く。
月の声が聞こえる方へ。
『……オネガイ、タスケテ……』
これは、この声は幻想ではない。
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