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「うわ、懐かし」  口に出したのは、ほぼ無意識だった。  夕飯のあと、なんとなく付けっぱなしにしていたテレビから流れてきた、聴き覚えのあるフレーズ。隣に座っていた健人(けんと)が「どうかしたの」とこちらに視線をよこしてきたので、「あー、うん」と裕二(ゆうじ)は曖昧な返事をかえした。 「昔好きだったんだよ、この曲。たしか俺が高校生の時だから……げっ、もう二十年以上前か」  ひい、ふう、みい、と指折り数えたところで、裕二は眩暈をおぼえた。あっという間に駆け抜けていった月日を数字で振り返ると、何故か途方もない気持ちになる。  とはいえ裕二は今年で四十三になるので、正しく逆算してそうなるのは、当たり前のことなのだが。 「有名な曲?」  健人の問いに、裕二は、いやと首を横に振った。 「そうでもない。知ってるやつは知ってたけど、そんなに流行った曲じゃないから」  だから、つい驚いてしまったのだ。  当時、同級生の友人たちと趣味でバンドを組んでいて、裕二の記憶が正しければ、たしか文化祭でこの曲を演奏した。みんなが知ってる曲なんてつまらないだろう、なんて仲間内の誰かが言い出して。今にして思えば、ティーンエイジャーにありがちなカッコつけだった。 「ふーん、でも俺、この曲どっかで聴いたことある気がする」  健人から意外な言葉が返ってきて、思わず「えっ」と短い声が出た。 「どこで聴いたんだ。こんなマイナーな曲。俺ですら、聴くのウン十年ぶりなのに」 「えー、どこでだっけ……」  少し考えるような仕草をしたあと、健人は、あぁそうだと膝を打った。 「ギターだ」 「ギター?」 「そうそう、親父が趣味でギターやってるんだけど、昔の曲ばっかり弾くんだよね。今流行ってるやつより、自分が若かった頃の曲のほうが好きみたいで。その流れで聴いたんだと思う」  あースッキリした、と健人は喉につかえた小骨が取れたみたいに、晴れ晴れとした顔をした。  「へぇ、親父」  裕二は、口の中で小さく健人の言葉を反芻する。 「……健人、お前って今年で何歳になるっけ?」 「二十四、ってこないだも聞いたよね、それ」
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