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4
「分かってんのか、俺は、お前の親とのほうが歳近いんだぞ!」
高校生の頃好きだった、あの曲。
おそらく健人の父親も同じ世代なのだと知って、一気に背筋が凍った。見えないナイフを喉元に突き付けられた気分だった。
「俺もうとっくに四十過ぎてんだよ。身体中あちこち痛いし、すぐ疲れるし。お前がどっか遊びに行きたくても毎回付き合ってなんかやれないし、セックスだって、お前の歳じゃほんとは物足りないだろ。知ってんだよ!」
感情にまかせて言葉を投げつけた。かつて自分が通ってきた道だから、何をどうしたって察してしまう。
目の前で健人が呆気にとられた顔をしていて、裕二はぐっと唇を噛みしめた。
「お前は、俺のことを誤解してるんだよ。いい加減に現実を見ろ。お前に相応しい相手は、もっと他にいくらでもいる。俺と一緒にいたって、お前に何の得もないだろう」
健人に向かって話しているつもりで、自分自身に言い聞かせている気がした。
人生は長いようで短い。若いうちにしかできないことは、山ほどある。
この狭い部屋で週末を過ごすたびに、早く健人の手を離さなければと思った。けれど思っただけで何一つ行動に移せないまま、今日までだらだらと関係を続けてしまった。
健人には幸せになってほしいという願いと、自分はその足枷になっているという事実。
自分は健人のパートナーにはなれない。いや、正しくは『なってはいけない』。
そんなことは当たり前で、最初から弁えていたはずだった。なのに、いつからこんな情けない自分になったのだろう。
『このまま一緒にいても、健人は幸せにはなれない』。
覆しようのないほどシンプルな答えが、もうずっと前から苦しくてたまらない。
「裕二さん」
名前を呼ばれて、びくりと肩が震えた。
「俺ね、裕二さんと歳が離れてて良かったと思ってる」
信じられない言葉が聞こえた気がして、思わず顔を上げた。
「……は、今なんて」
「うん、だから、俺たち歳離れてて良かったなって」
聞き間違えではなかったらしい。
前々からどこか変わった奴だとは思っていたが、まさかここまでとは。そう考えていたのが顔に出ていたらしく、健人は「そんな呆れないでよ」と困ったように眉を下げた。
「だってさ、裕二さんは俺より十九年分多く色んなことを知ってて、それでいつも俺を助けてくれるでしょ。で、俺の取り柄って若いことじゃん。裕二さんが歳とってしんどくなったら、今度は俺が裕二さんのこと助けてあげられる。それって、すごく良いと思わない?」
さも名案とでも言いたげな得意顔に、深い溜息が出た。この期に及んで、まだそんな夢みたいなことを言うのか。
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